意外な広がりもあった。生理日予測の情報が共有できることで、恋人と海外旅行のスケジュールを立てやすくなったという男性利用者の声や、親しい友人の間で情報を共有し、レジャーに行くときに活かしたいといった学生の声など、個人的な管理だけでなく、「共有」でも一定のニーズがあることを知った。
酒匂さんは「こうしたアプリをきっかけに、特に若い世代の間で身体のことをオープンに話せるようになってきていると感じます」と手応えを語る。
イベントには男性の参加者も多かった
海外ではビッグデータを活用
海外では先進的な開発も進む。韓国発のスタートアップ企業Loon Labは、センサー付きの月経カップとデバイスを連動させ、経血量や色、日数、膣内体温が可視化できる仕組み「LOON CUP」を開発。世界最大級の家電見本市「CES 2019」ではInnovation Awardを受賞し、現在アメリカでの商品化に向けFDA(食品医薬品局)の審査中だ。ビックデータを活用することで、子宮頸がんなどの女性特有疾患の早期発見も目指しているといい、医療への応用も期待される。
陣痛管理のウェアラブル端末「BLOOMLIFE」
また、アメリカのスタートアップBloomlifeが開発した「BLOOMLIFE」は、陣痛管理のウェアラブル端末。妊婦のお腹に付けたパッチから、子宮収縮の動きや胎児のキックの回数を感知し、陣痛が起こるタイミングを計測できる。将来的には、ビックデータの解析で、出産予定が時間単位でわかるようになるかもしれない。
フェムテックの課題
フェムテックには課題もある。ひとつは、開発コストだ。診断や治療を目的とする高度なサービスは医療分野にあたるため、開発に高額な資金が必要になる。結果的に、デバイスなどは若年層に手が届く手頃な価格帯での販売が難しいのが実情だ。
また、カバー領域にばらつきもある。現在、フェムテックで最も多くリリースされている領域は生理で、次いで妊活、子育てと続く。女性特有疾患や更年期、セクシャルウェルネス、メンタルヘルス領域は未だ少ないなど、ニーズに対して開発が追いついておらず、細分化が求められる。
「娘が年頃で、そろそろ生理になるかもしれない。父親として何ができるのかわからず困っています」
「生理休暇って取得しづらいですかね。苦しそうなのを見てかわいそうだなって」
これらはワークショップに参加した男性の声だ。
日本では、家庭や職場で女性の健康課題が語られる機会が少ない。一方で、女性の月経随伴症状などにおける労働損失は年間約5千億という試算もあり、企業の生産性にも直結する。
フェムテックの成長は女性の健康課題の解決に留まらず、セクシャルウェルネスへの抵抗感やタブー視の風潮も変えるかもしれない。本格的な幕開けが待たれる新市場、ポテンシャルは計り知れない。