米仏大統領夫人を描いたフェミニスト劇の問題点

ブリジット・マクロンとメラニア・トランプ/Getty Images

ロンドンのブリッジ・シアターで最近上演された劇『トゥー・レディーズ(Two Ladies)』は一見、力を奪われた女性の怒りを強力に描きあげた作品のように思える。主役は現在の米仏ファーストレディーにわずかにアレンジを加えた架空の人物、ソフィアとヘレンだ。

ソフィアは、その直前に抗議活動家から血を浴びせられ台無しになったデザイナー服を着ている。2人は同じ部屋に缶詰めとなり、女性会議でソフィアが行う予定の退屈で当たり障りのないスピーチの準備を進める。一方、2人の夫は階下で行われている先進7カ国(G7)首脳会議で、迫りくる戦争の危機について協議している。

劇ではまず、ソフィアとヘレンのさまざまな相違点が浮き彫りになる。ヘレンは夫より24歳年上で、ソフィアは夫より24歳年下だ。ヘレンは権力と教養があり、夫のキャリアと意思決定に大きな影響力を持っている。一方、夫が自分と人前以外で接することはないと認めるソフィアは、クロアチア出身であり、トロフィーワイフ(金持ちの夫が誇れるような若くて魅力的な妻)になるには「間違った類いの欧州人」で、多くの人からはもともとは売春婦だったと思われている。

ソフィアはしっかりとした自己認識を持っており、聴衆はその判断力を信じ始める。彼女は非常に高いハイヒールと血で汚れた白いデザイナースーツを身にまとい、よたよたと歩き回りつつ、自分に浴びせられる嘲笑についてさらりと説明する。彼女は信じがたいほど優雅で、傷ついている。

ヘレンは初め、軽蔑的でインテリかつ冷淡な態度を見せる。彼女は、戦争をけしかける米大統領を夫が支持することは決してないと確信している。また、ソフィアはつまらない人間で、自分との共通点は何もないと考えている。自分には主導権があるが、彼女にはない、と。

しかし、あることをきっかけに雰囲気は変わる。それは、ソフィアが男性の持つ力に初めて気づいたときの体験について語った時だ。彼女は15歳の時、家族の仲介によって集団レイプを受けた。だが周囲の人々は皆、それをたいしたことではないと考えていた。ソフィアは、主導権を握るのは男性だと考えているが、ヘレンは夫の権力の裏にいるのは自分だと考えている。

そこでソフィアは、ヘレンが置かれている本当の状況を暴露する。ヘレンの夫は女性閣僚と浮気をし、相手を妊娠させていた。ヘレンの夫は、ソフィアの夫より良い人でも、高潔な人物でもなかった。ファーストレディーは、夫のラストレディー(最後の女性)であるとは限らない。ソフィアとヘレンは2人とも、夫の飽くなき野望の犠牲者なのだ。2人は男性、権力者、戦争に抗議するという解決策に至り、団結する。
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編集=遠藤宗生

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