睡眠と食事の改善 それはお金があればなんとかなるのか?

ニューロスペースCEO 小林孝徳(左)とシェフ 松嶋啓介(右)


松嶋:人は実家を出ると、今まで自分の食事を管理してくれていた「母というアプリ」がなくなります。そして、自分でなんでも決めていかなければならなくなる。自分の稼いだお金で食べるものを決められるようになりますが、どんな食べ物を選べばいいのかの指標がないんですよね。

「母というアプリ」は子供が大好きで、ものすごく経験値を持っています。子供が大きくなっても、母は常に子供の成長を祈り、子供が成長し続けられるよう工夫し続けた食事をつくってくれる。ディープラーニングのように進化するんです。きっとsiriより賢いですよ。

親元を離れてこのアプリがなくなったときに大切なのは、自分で自分の体に向き合える術を持っているかどうか。会社で怒られたり、仕事で疲れたりした時に、自分でその状態に気づけるかどうか。親は気づいてくれるけど、自分ではなかなか気づけない。

こういう食べ方したほうがいい、こういうもの食べた方がいいとかは、お金でどうにかできる資本主義的な解決。お金やもの以外で解決できる部分、「自分の行動を見直さない現状」を見直すべきですね。

quantumと博報堂でクリエイティブディレクターを務める原田 朋

原田:小林さんは睡眠のアプリを開発していますよね。睡眠の特性として、寝ている状態を自分では実感できないと思うんですけど、このアプリを使えば、睡眠の領域で「自分を見直すこと」ができるようになるのでしょうか。

小林:睡眠の一番難しいところは、睡眠が無意識下で行われるため、その価値を実感しづらいことです。だからテクノロジーを活用して、体内時計がどう動いているのか、睡眠が足りているのか、その人の等身大の睡眠を数値化してあげる。数字で目視できるようにすることで、昼間どう過ごすべきかの行動変容を起こさせたいと思っています。

昼間の行動は眠りに影響するし、睡眠が昼間の行動に影響する。この二つは表裏一体です。だから意識しづらい睡眠をいかに意識できるものにするか、人生の表舞台に出していくかが難しいところで、努力しています。

原田:昼間の過ごし方が夜の眠りに影響するという話はまだメジャーじゃないと思いますが、夜眠りやすい昼間の過ごし方ってあるんですか?

小林:あります。一つは、太陽の光を浴びること。今日もそうですが、曇りや雨の日も野外は明るいですよね。この光を浴びたタイミングでメラトニン分泌がストップして覚醒していく。つまり、朝昼に浴びた光が夜の眠気を作って、睡眠のリズムができているんです。

原宿にあるKEISUKE MATSUSHIMA

食の観点でも、血糖値をあげるようなものを摂取することで「朝だ!」というのを体に認識させる。時差ぼけの調整でも使えるテクニックですが、こうやって朝昼晩で食べるものの内容を変えていくことで、生活のリズムを作っていく。それらがすべて、夜の眠気に影響していきます。
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編集=鈴木奈央 写真=山田大輔

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