次に、失敗を受け入れる文化であるが、これは起業家精神を促進するためには重要なものである。イスラエルでは、かなり若い頃から、最善の学習方法は、間違いを経験することであると教えられる。
したがって、リスクテイクという概念は一般的であり、起業家たちは、すすんで挑むことで尊敬を受けている。かつてイスラエルの母親たちは、子供たちが医師や弁護士になることを望んでいたが、今では成功する起業家になることを望んでいる。
すべてのドアが閉じられていても、解決策を見つけることをあきらめず、そのためにアイデアを共有することも厭わない。さらに、厳格な階層や厳密な手順もないため、誰もが迅速かつ柔軟な方法で新しいソリューションの開発が行えるのだ。
イスラエルのこうした進歩的な文化は日本とは異なるが、日本企業とイスラエルの企業が共通の価値を見出し、実りあるパートナーシップを確立しているケースもある。イスラエルの最先端の技術を、日本から他の市場へとビジネス展開するのもよいかもしれない。
スタートアップ支援の歴史と現在
イスラエルの多くの人たちが、国自体をアクセラレーターと見なしているように、強力なVCコミュニティ、政府支援プログラム、多くの技術的インキュベーター、強力なグローバルプレーヤー、そして学術機関など、国全体でスタートアップ企業を支援し、育てている。
政府による支援について歴史的に有名なのは、「ヨズマ・プロジェクト」という1990年代のVC設立支援策だ。旧ソ連からの高学歴な移民流入のタイミングとあいまって、現在のスタートアップ大国の礎の1つとなったと言われている。
現在は、主としてイノベーション庁(Israel Innovation Authority、IIA)という政府機関が支援を行っているが、これは日本の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に当たるファンディング・エージェンシーである。
年間650件ほど、conditional loanと呼ばれる支援金をスタートアップに支給しており、ビジネスが成功した場合には、支援金額を上限として、毎年売上の数%を返還させる仕組みをとっている(日本のNEDOも同じ仕組み)。
ただし、この支援金には条件が課されており、知財・ノウハウの保有をイスラエルに残すよう求められているため、仮にM&A等に伴い当該支援金を受けた事業に関係する知財・ノウハウを海外に移す場合は、IIAの承認及び最大で当該助成金額の6倍の金額の移転料を支払う必要がある。
また、IIAは、上記のようなスタートアップへの直接的な支援のみならず、エコシステムの創出自体にも取り組んでおり、多国籍企業がイスラエルにイノベーションセンターを設立することや技術のスカウトも支援している。
さらには、ハイテク産業におけるエンジニア不足や就労人口が少ないこと(労働人口の約8.7%)、国内での格差の問題等を受け、エンジニア養成(生涯教育としてのプログラミング教育への支援)にも取り組んでいる。
日本との関係では、IIAとNEDOがMOU(了解覚書)を結んでおり、日本企業とイスラエル企業が共同研究開発を行う際には、それぞれが支援を行う「コファンド事業」という支援制度を運用している。