しかし、2019年10月半ばに公表された米報告書によると、いまは様子が違うという。この報告書は、米議会両院合同経済委員会の副議長を務める下院議員キャロライン・マロニー(ニューヨーク州第12区選出)の指示で作成されたものだ。
報告書は、アメリカでは過去20年で自殺率が30%上昇したと指摘。そうした事態は、近年に見舞われた不況の前後に、住宅ローンの債務不履行や失業率増加のせいで経済的苦境が深まったことと「おそらく因果関係がある」としている。近年の不況とは、2000年代初頭のIT不況と、2007年から2009年にかけて起きた金融危機のことだ。
しかし、金融危機から10年が過ぎても、報告書が言う「自殺の流行」は衰えていない。
報告書では、貧困と自殺は密接に関係しているという考えについて批判し、アメリカでは銃による自殺が、ほかの高所得の国々と比べて10倍近い点を指摘している。
マロニーの報告書は、自殺率と銃所有の割合には関係があるとしている。
「銃を保有する世帯割合と自殺率は、明らかに関係がある。人口全体における総自殺率でも、各年齢別の自殺率、男性・女性別の自殺率、地域レベルならびに州レベルの自殺率で見ても、そう言うことができる」
州法で銃規制を厳格化すれば、銃による自殺が減る可能性があると報告書は提言している。
その根拠として、銃規制の緩いアラバマ州とモンタナ州では、銃を使った自殺者の割合が全体の63%に上っていることを挙げている。一方、銃規制が厳しい州では大幅に低く、マサチューセッツ州は22%、ニューヨーク州は26%、カリフォルニア州は37%だった。
アメリカでは2017年に4万7000人が自殺したが、その半分以上が銃による自殺だった。
「銃が入手しやすいことで、自殺による死のリスクは3倍になる」と報告書には書かれている。
また、銃が手に入りやすいことは、とりわけ高齢者が自殺する危険性を大きくするという。
「銃が原因で死亡した高齢者の10人中9人は自殺だった」という。
85歳以上の高齢者の場合、銃を使った自殺者の割合は、15歳から19歳のティーンエイジャーの3倍に上る。
また、女性よりも男性のほうが銃を使った自殺者が多く、その差は6.5倍だ。こうした男女の違いは、ティーンエイジャーと若年層の場合は8倍近くになる。
年齢も、自殺の要因となることが多い。
アメリカ全体では、死因の10位に自殺が入っている。ところが、2016年の10歳から34歳まで死因を見ると、自殺は2位だ。
報告書はさらに、消防士と警察官では、殉職者より自殺者のほうが多いと指摘している。
「2017年には、少なくとも103人の消防士が自殺した。一方、殉職者は93人だった。同年、自殺した警察官は140人で、殉職した警察官は129人だった」