ビジネス

2019.11.05

「後で対応しよう」が命取り──スタートアップ知財戦略のキーマンが語った、「知財思考」の重要性

大谷寛

近年、初期フェーズのスタートアップ企業が特許の取得を発表するケースが増えている。起業や資金調達が容易になったと言われる昨今、「ポスト・ユニコーン」を目指した戦いはリーガル面でも本格化しつつある。

そうした状況の中、スタートアップ知財戦略の専門家として、数多くの経営者を支援しているのが六本木通り特許事務所代表の大谷寛(以下、大谷氏)だ。同氏は11月5日、ベンチャーキャピタル(VC)からの調達前のスタートアップ向け商標出願プラン「エンジェルラウンド」の提供開始を発表した。適切な時期での商標出願を通して、スタートアップの円滑な事業成長をサポートしていく予定だという。

なぜ、大谷氏はVCから資金調達前のシード期と呼ばれるスタートアップに特化した支援プログラムを開始することにしたのか。

今回、大谷氏に対するいくつかのヒアリングを踏まえつつ、スタートアップ企業が知財戦略を考える上での「知財思考」の勘所について探っていく。

スタートアップの知財支援に取り組む理由

ベンチャー市場における特許取得の動きが活発化している。また、経済産業省も2019年6月に「ベンチャー投資家のための知的財産に対する評価・支援の手引き」を発表するなど、ベンチャー向けの知財に関する情報発信が強化されている。

ベンチャー市場への投資額が増加し、スタートアップのリソースが増えたことで、より大きな成長を目指す上で事業計画を狂わせるリーガルリスクに目を向けることは一層重要になり、知財に取り組むことも選択肢のひとつになってきている。

そうした状況の中、スタートアップの知財戦略に早くから注目し、特許や商標制度の利用を最先端の実務で支えるべく取り組んできた大谷氏だが、弁理士としてのキャリアをスタートした当初は、大手企業がクライアントの中心だったと言う。

「大学・大学院では、応用物理学を専攻していたのですが、途中で方向性を変えて、特許の仕事に携わるようになりました。最初の5年間は、国内外の大手企業の発明を特許権として権利化する仕事に取り組み、その後の5年間は、国内外の大手企業の特許訴訟に関する仕事に携わっていました」

そんな折、知人からの相談がきっかけで、大谷氏はスタートアップという世界に強い関心を抱くようになる。

「2012年頃からスタートアップ企業の案件の機会を頂くようになり、スタートアップという世界の存在を知りました。同時に、自身がこれまで培ってきた知見をスタートアップ企業の方々に対して役立てることができるのではないかと感じるようになったんです」
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文=勝木健太 写真=小田駿一

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