昨年は日清食品が公式ツイッターで展開する企画の第1弾で、「古代エジプト感がすごい」(エジプト新王国時代のファラオの正妃の1人である「王妃ネフェルティティ」をカップヌードルの冠で模した)を発表し、話題を呼んだことが記憶に新しい。
流れは、2015年、「ヴィレッジヴァンガード」が新鋭クリエイター発掘のために運営する第2回「雑貨大賞」で、「湖面から突き出た足 製氷器」が大賞、「餃子リバーシ」が『あそび部門賞』を受賞したあたりから起きた。乙幡がデザイン、企画する作品は雑貨として量産され、流通経路に乗り、たとえばアマゾンでも販売され始める。
ハト型のハイヒール「ハトヒール」
乙幡作品が海外でも、大手EC「フェリシモ」の企画サイトで発表した「ノアの方舟ポーチ」「モーセの奇跡ポーチ」がじわじわと反響を呼び始めた矢先の2017年。本物のハトが歩いているように見える婦人靴「ハトヒール」が、英国「Mail Online」、「The Awesome Inventions」、米国「Art People Gallery」「Post Magazine」など海外の多くのオンラインメディアで取り上げられ、話題をさらう。かなり特異ともいえるその感性が、「マニアックな作り手発、フリークユーザー」の規模を越えて事件を起こしたのだ。
国内外を問わず人心をかそけくふるわすその珍発想の源とは。そして発想を「作品」にとどめず産業化、実装化し、高エンゲージメントなファン層にリーチする「マイクロインフルエンサー」としての巧まざる手腕とは。
「続かなかった」個々の経験から……
「妄想を含む発想ありきで、手段を選ばずに色んなものを作ってみる、いわば工作から始まったので、私は造形作家とか工芸家というよりは、なんでもやる工作家、しかも妄想作家なんです」と乙幡は笑う。
「大人でも、誰でも工作は体験して生きていますし、工作の時間って大体の人は楽しく過ごしたはず。そんなノルマ感とか仕事感のない響きを『工作』という言葉から拝借して、自称しています」
「ヴィレッジヴァンガード」のアワード「雑貨大賞」第2回で大賞を受賞した「湖面から突き出た足 製氷器」で作った氷
幼少期から手を動かすことが好きで、器用でもあった乙幡。職人系の道がありうるかなとは「うっすら」思い、雇われて働くことには向かないなとも感じていた。だが、「個として働く」ということのハードルが今より段違いに高かった90年代という時代のムードも手伝って、「会社員」という生き方をとりあえずは除外せず、大学卒業後は就職という道を選ぶ。
「妄想工作所」乙幡啓子
そこからの彼女のキャリアはとにかく多彩だ。マーケティング会社、派遣社員、アルバイター、Webデザイン、出版社、フリーのナレーターなど──。だがそんな「続かなかった」個々の経験も、妄想工作家という「何者か」にたどりつく上で作用しているという。