「セラノスで起こったことはこの企業特有の問題ではなく、スタートアップ業界全体の問題を示している」と、チェンは先日開催されたフォーブスの「30アンダー30」のイベントで語った。
「新興企業にありがちな倫理面の問題は、最近ではウィーワークやユーバイオーム(uBiome)のような規模の大きい、調達額も巨大な企業で新たな問題を引き起こした」
チェンは2013年にセラノスのラボで、7カ月間勤務した。彼女はセラノスの検査結果に問題があることを把握し、複数のメンバーにそれを指摘したが、その意見は無視されたという。その後、彼女はラボを去り、当局に問題を報告した。
その結果、一時は企業価値が90億ドル(約9800億円)に達したセラノスは信頼を失い、会社は解散した。創業者のエリザベス・ホームズは昨年、米国証券取引委員会(SEC)から詐欺容疑で告発され、来年夏からの連邦裁判所での裁判を控えている。
チェンによると、そこには組織的な問題が存在し、初期のスタートアップの多くはガバナンスや倫理的な意思決定の課題を抱えているという。セラノスに続いて発生したのが、サンフランシスコのバイオ関連のスタートアップ、ユーバイオームの事件だ。
ユーバイオームの企業価値は一時、6億ドルに達したが、FBIが同社の会計上の不正を捜査した後、破産に追い込まれた。報道によると同社の共同創業者らは、検査プロセスについての内部からの指摘を無視し続けていたという。
ニューヨーク本拠のシェアオフィス企業のウィーワークもかつて、470億ドルの評価を受けたが、IPO計画を撤回した後、創業者のアダム・ニューマンを追放した。ニューマンはCEOの特権を濫用し、不正な株式の売却により私腹を肥やし、彼の妻も会社の経費で法外な支出を行っていた。
理念に燃える創業者の暴走を防ぐ
チェンは「エシカル・アントレナーシップ」と呼ばれるNPOを設立し、スタートアップ企業のガバナンス向上を支援しようとしている。
法律事務所コンスタンティン・キャノンのMary Inmanは、スタートアップが初期の段階からガバナンスを高めることで、創業者の暴走が防げると述べた。「事業拡大に突き進む創業者は、世界を変えるという高邁な理想を掲げる一方で、倫理面での課題などの細々した問題への対処を怠る傾向がある。新興企業らが初期の段階からこの問題に目を向けない限り、今後も同様なスキャンダルが発生する」と彼女は続けた。
シリコンバレーでまず変革を起こすことで、同じインパクトを世界に広げていけるとチェンは話す。なぜなら、世界のどの国であっても、起業家たちはテクノロジーを過度に信頼してしまうからだという。
「香港であろうとバングラデシュであろうと、それは同じことだ。起業家たちはシリコンバレー企業のやり方を模倣しようとしている」とチェンは続けた。