ビジネスに必要な、当たり前を疑い「宝の原石」を見つける力

マックスウェルの悪魔

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、サンワテクノス代表取締役社長の田中裕之が『マックスウェルの悪魔』を紹介する。


熱い液体と冷たい液体を一緒にすると、熱が熱い方から冷たい方に流れて、最終的には全体が同じ温度になる。そして、二度と熱いものと冷たいものに分かれることはない──。大半の人は、それを「当たり前だ」と言うでしょう。

しかし、そう思わない人がいました。スコットランドの物理学者ジェームズ・クラーク・マックスウェル氏です。彼はこんな仮説を立てました。

まず、外から隔離された容器を用意し、この容器を小さな扉のついた仕切りでAとBのふたつの部屋に分けます。この容器の中には、各部屋の分子を見ることのできる「マックスウェルの悪魔」、物理学の世界でそう呼ばれている「小人」がいて、動きの遅い分子をAに、速い分子をBへと通り抜けさせるためにこの扉を開け閉めします。その結果、一度は一緒になってしまったモノを再びふたつに分けられる、という考えです。

分子の動きの速さは温度に連動しますから、もし、この考えを実現できるなら、混ざり合ってぬるくなった液体を、熱い液体と冷たい液体へと分けることが可能になります。

マックスウェル氏の思考実験から生まれたこの考えが発表された1800年代半ば以降、長きにわたって多くの科学者がこの難題と向かい合ってきたのは、そこに大きな可能性が感じられたからではないでしょうか。

本書を読みながらふと考えたのは、このマックスウェルの法則が有効なのは物理学上だけではないということでした。

最初は革新的に見えたモノや考え、人の心理も、徐々に世に広まり、混ざり合うことで、最後には平坦化されていきます。ところが、世界を席巻してきたGAFAと呼ばれる超巨大企業は、乱雑にあふれる情報、とりわけ「個人情報」を整理し、必要なデータを抽出することでビジネスを拡大してきました。一昔前には利用することなどまったく考えられておらず、まるでゴミのように扱われてきた個人情報を、です。

このGAFAこそがビジネス界に存在する「マックスウェルの悪魔」であり、当たり前になってきたこと、また、その価値の高さが見いだされていないものを分別することで、新しいマーケットを作り上げたのです。

ビジネスの世界で勝者になるためには、世の中にあふれる情報やモノを当たり前だと思わず、その中から宝の原石を見つけられる力が必要で、それは特に我々のような商社にとって最も大切な才能だと言えます。

最後に、マックスウェルの法則を、近年、中央大や東大、NTTなどが実験で実証したという話を耳にしました。興味のある方はぜひ調べてみてください。


たなか・ひろゆき◎1957年生まれ。1979年中央大学理工学部卒業後、山田工業(現サンワテクノス)入社。2008年常務、14年専務、16年取締役専務執行役員。17年6月より現職。同社は19年11月に、創業70周年を迎える東証一部上場の技術商社。

構成=内田まさみ

この記事は 「Forbes JAPAN 真のインフルエンサーとは何だ?」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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