憲法改正議論の「切り札」とは


しかし、少数ながら自衛隊は第9条からみて違憲な存在であるとする法曹関係者がいることも事実であり、自衛隊員の士気にかかわる、と安倍総理は考えている。そこで、自衛隊の合憲性を明文化することが、今回の憲法改正議論の焦点となる。その方法としては、次の2つが考えられている。第一の方法は、第9条第2項を修正して、自衛のための戦力、自衛のための交戦権を認める。第二の方法は、第9条第2項は変えずに、第3項を付け加えて、そこで、自衛隊を第2項の例外として位置付ける、というものだ。後者を「加憲」と呼ぶ人もいる。このような憲法改正が実現したとして、自衛隊に関する現状と何が変わるのか、と問われると、安倍総理の回答は、現状と何も変わらない、ただ、違憲という疑念を完全に払拭することが重要という。

これまでの経緯を見ると、アベノミクスは、有権者に好評だが、安全保障の論議は不評である。14年に、閣議決定によって、集団的自衛権を認めるように、憲法解釈を変えたときには、支持率が低下を続けた。13年末には、60%あった支持が、14年末には、45%まで低下した(「日本経済新聞」の電話調査)。これから進めようという憲法改正への動きでも、支持率の低下が懸念される。支持率が極端に下がれば、衆議院議員、参議院議員のなかで、憲法改正への賛同が集まらない。特に改憲勢力といわれる政党の議員数を合計しても、3分の2に達していない参議院では他政党あるいは無所属から賛成をとりつけなくてはいけないので、世論の動向は重要だ。

憲法改正が不人気だとすると、それを相殺するような政策はないのか。それはまさにアベノミクスの強化、継続ではないか。つまり、安倍総理が憲法改正を実現したいのであれば、アベノミクスをしっかり進めなくてはいけない。社会保障、特に年金制度の持続可能性に不安を感じている若い世代の手取り所得を高めるような政策の立案が急務である。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学特別教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002年〜14年東京大学教授。近著に『公共政策入門─ミクロ経済学的アプローチ』(日本評論社)。

文=伊藤隆敏

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