1品だけの「その日の料理」が美味しい、サンドイッチの店

「シェ・アリーヌ」ランチタイムの始まりのショーケース


この店に行き始めてから、日替わり料理を食べるまでに時間がかかったのは、魅力的なサンドイッチのラインナップによるところも大きいが、目に見えるところに料理がないことも理由だ。料理はオーブンの中で保温されていて、注文が入ったときにしか外に出さない。それに加え、私が行く時間帯、お昼のピークを少し過ぎた頃には、もうすでにplat du jourは売り切れている。

それであるとき、何時までに来れば良いか訊ねてみた。すると、最も混雑するのは13時15分ごろだから、それを過ぎるともうないことが多い。「13時までに来れば、たぶん大丈夫」と教えてくれた。

言われるがまま、12時50分に着くよう行ってみて、やっと初めてのplat du jourにありつけた。その日の料理は、鶏肉とパプリカ、チョリソーと小粒のジャガイモを合わせたもの。少し深さのある、薄いピンク色のプラスチックの器に盛って出された。

形が崩れているのはパプリカだけで、器の底に見える澄んだ汁からも、素材はそれぞれ別々に調理して最後に合わせたことが窺えた。オーブンで保温をし続けているのに、味が煮詰まっているわけでもなく、さっぱりとしている。

ゆで卵のサラダが人気

カウンターに座って食べながら、常連客のサンドイッチの注文の仕方に興味津々で、耳は斜め後ろを向いていたと思う。カウンター席の前は全面鏡になっているから、自分の背後で起こっていることが全部見えるのだ。



ショーケースの手前に柱があり、そこにもメニューが書かれているおかげで、ショーケースの前に来た時には、みんな自分の食べたいものはだいたい決まっている。会社の同僚と数人で来ているグループも少なくなく、その場合、混み合う店内に全員は入らずに、1人に買い物を託して、他の人は外で待つようにする配慮も見られた。店の入り口から、「あっ、パンは丸いほうにして」とか「クランブルもお願い」という声がもうすぐ順番の回ってくる同僚に投げられたりする。

そう決められているかのように、注文の仕方は誰もが同じだ。まず具材名、次にバゲットか丸パンかを伝え、最後に、持ち帰りで、もしくはイートインでの順に言う。「ほかに何か?」と聞かれると、ショーケースの中を覗きながらデザートやサラダを頼む人もいる。卵黄を上に散らしたゆで卵のサラダ「ウッフ・ミモザ」は人気のようだ。

数人に1人、「plat du jourはまだありますか?」と注文する人がいた。そして、かねて聞いていた通り、13時10分には最後の1人前が売り切れた。日替わり料理を選ぶ人の多くは、デザートもつけてイートインで食べることを選ぶ。そして例外なく、食べ終わった後は、カウンターの奥にある流し台に食器を下げに行くのだった。

この店のスムースな流れに、さらに興味を惹かれた。日替わり料理ももっといろいろなものを食べてみたかった。行ってみないと何が出てくるか分からない、選択肢は1つしかないその潔さが新鮮だった。

ある日行くと、その日の料理には鱈のブランダードが掲げられていた。確かにサンドイッチの具で、ブランダードを見たことがあったけれど、頼もうと思ったことはない。たまに食べたくなることもあるけれど、それほど好きな料理ではない。

一般的にブランダードは、塩漬けの干し鱈を戻し、ジャガイモとオリーヴオイルをたっぷり加えながら混ぜ合わせたグラタンで、ニンニクが効いて若干重い印象だ。ランチに食べるのは躊躇う。だけれど、干し鱈ではなく「鱈」とある店主デルフィーヌのブランダードは、なんだか違うような気がした。
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文・写真=川村明子

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