ビジネス

2019.11.05

壊れながら大きくなる。世界のデジタルPR稲木ジョージの「個の美学」

稲木ジョージ


 

7年前、「デジタルPRコンサルタント」として仕事を始めた頃はまだ、「インフルエンサー」という概念が確立されていなかった。その中で、ビューティー、ファッション関連のブランドのパーティーに今でいうインフルエンサーたちを起用し集めていたが、「デジタルPR」が今のように花形の職業になることは想像できなかった。

そして今ジョージは、ニューヨーク、ロンドン、パリなどでの最先端のPR、ファッションシーンにおける次の一手は何かを考えているという。だが、先頭を突っ走る上では、すべてを万端に用意してからでは遅い。おそらく準備しながら突っ走る日々なのではないだろうか。

「『Fake it till you make it(うまくいくまでは、うまくいっているフリをしろ)』という格言があるんですが、とにかくビジネスオーナーは『NO』を言ってはいけない。とにかく何とかしなきゃならない、という精神が常にありますね」

グローバルに活躍する元祖デジタルPRとしての現在、かつての延長線上ではあるが、パーティーも、ブランドが主催するイベント自体の企画力や切り口、メッセージが問われている今、「どうやったらエフェクティブなイベントが作れるか」を考えながらやるようになった。その上では、「MILAMORE」を設立したことも大きく役立っているという。

「ジュエリーをしていないと裸で歩いているみたい」というジョージは、この日も自らがクリエイティブディレクターを務める「MILAMORE」のジュエリーを身につけていた。「MILAMORE」は他のブランドにないデザインと「ストーリー性」が魅力で、モチーフに鶴、亀、金魚などの日本的なアイテムが使われていることも特徴だ。

「東京で築き始めていたPR業界でのキャリアを『白紙どころか透明に戻して』ニューヨークに住み始めたばかりの頃、仕事もコネもなく、気持ちが落ちていた。その時、『金魚が死ぬと自分の悪いところが死んでくれて、いい運気を運んでくれるんだ』と友人から聞いたことがずっと残っていて、『MILAMORE』を立ち上げた時、アイコンに金魚を使うことにしたんです」

ジュエリーブランドを手がけようとした理由も、世界中を旅してみて、「本質的に日本らしい」と思えるジュエリーがなかったためだ。「日本の文化を象徴するジュエリーを作りたいと思ったんです」。

そして共同設立したジュエリーブランド「MILAMORE」。この日、ジョージが身につけていたバングルは、「金継ぎ(もともとは割れた陶器の継ぎ目に金粉を蒔く、日本独自の修理方法)」をモチーフにしたコレクションからのものだ。


身につけていたバングルは「MILAMORE」の「金継ぎ」コレクション

「自分の、ネガティブなところも愛して受け入れることは『セルフラブ(自分を愛すること)』につながる。例えば筋肉が、壊れることで強くなるように、人も壊れながら大きくなるんです。だから、『壊れた自分も愛してあげよう』という思いを託した『金継ぎ』のコレクションを作りました」というジョージ。
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文=石井節子 写真=曽川拓哉

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