台所から29億円の「失われた」絵画 驚くべき発見の経緯

チマブーエ(1240頃〜1302頃)「十字架のキリスト」サンタ・クローチェ聖堂 (フィレンツェ)所蔵(vvoe / Shutterstock.com)

チマブーエの作品が競売にかけられることは珍しい──いやむしろ、まったくない。しかしこのたび、芸術史が塗り替えられた。今年の夏に発見され、本物と確認されたチマブーエの「失われた」絵画が27日、パリ北部サンリスの競売企業アクテオンで競売にかけられたのだ。

同作は、アクテオンの予想落札価格の約5倍となる2400万ユーロ(約29億円)で落札された。この落札価格をチマブーエ作品の「市場最高値」だとするのは間違っている。今回の競売を除き、チマブーエの「市場」はこれまで存在せず、今後もできる可能性は低いからだ。

この絵画を売り出した所有者の仏女性(92)については、本人とその家族が匿名を貫くことを決めたため、あまり詳しい情報がない。この女性は、テレビのお宝鑑定番組でありがちなことに、今年に持ち物を処分することを決めるまで、この絵画に大きな価値があることを全く知らなかった。

自宅キッチンの壁にかけられていた小さなひび割れた黄土色の絵が、世界で有名な2枚折り祭壇画の一部であり、29億円の価値があることを知るまでには時間がかかった。アクテオンの主席競売人は競売開始前にものものしい口調で、「チマブーエ作品の競売は二度とない」と述べている。この見解はおそらく正しいだろう。だが、今回のような台所がどこか別の場所、例えばイタリアなどにも隠れている可能性はあるだろうか?

伊画家ジョットの師匠であり、初期ルネサンスの巨匠であるチマブーエの作品は非常に珍しい。チマブーエのものとされる作品は11点で、全て木材に描かれており、署名はなく、表現的にも技術的にも傑作だ。

競売に掛けられた作品は、キリストの受難を描いたもので、元所有主の女性宅のキッチンに非常に長い間飾ってあったものだ。あまりに昔のことなので、女性は自分の家族がどうやってこの絵を入手したのかを覚えていないという。

欧州では、多くの家族が先祖代々伝わる品を持っているが、今回の話はそれでも驚くべきものだ。女性の家族は、何気ない考えで、持ち物を鑑定に出した上で一部を売り、残りは捨てようと決めた。アクテオンの鑑定士フィロメーヌ・ウォルフは、忙しい時期に依頼を受けたため、一連の品を鑑定する期間が1週間しかなかった。それでもウォルフは、この絵が傑出したものだということにすぐに気がついた。
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編集=遠藤宗生

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