しかし、このドキュメンタリー映画の舞台はイランの首都・テヘランであり、彼女たちがいるのは高い塀に囲まれた更生施設である。
少女たちは、貧困や虐待、近親者から性犯罪を受けるなど過酷な境遇の中で育った。薬物や暴力などの犯罪に手を染めた結果、この施設に入所している。20人ほどの収容者のうち、8人が顔を隠すことなく、ニックネームなどを名乗り、自分の人生について、メヘルダード・オスコウイ監督によるインタビューを受けていく。
このイラン発のドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』(英題:Starless Dreams)が11月2日から、東京・岩波ホールなどで全国で順次公開される。
本作は2016年に発表され、ベルリン国際映画祭のジェネレーション部門でアムネスティ国際映画賞を受賞したほか、世界各地の映画祭でも賞賛された。オスコウイ監督は、これまで少年の更生施設を舞台にした2作品を監督し、2019年の最新作では、成人女性の刑務所を舞台に、『少女は夜明けに夢を見る』の続編とも言える作品を発表している。
「誰かに銃口を向けたことはある?」
生粋のドキュメンタリー作家であるオスコウイ監督は、少女たちにとってデリケートな話題についても、容赦なく、単刀直入に次々と質問していく。彼女たちが、時に涙を流しながらも、淡々と答える姿が印象的だ。
『少女は夜明けに夢をみる』(C)Oskouei Film Production
例えば、「クラスの盛り上げ役」のように明るく振る舞うシャガイエ。くりっとした大きな目と薄い唇からのぞかせる前歯が印象的な彼女は、強盗、売春、薬物使用などの罪で収容された。
食事のシーンでは、彼女は監督の真似をし、手でマイクを向けるような仕草をして、別の少女に質問して笑いを誘う。また歌うシーンでは、手拍子をたたき、周りを煽るようにして盛り上げる。
そんな彼女に、監督は一対一で対面した時、唐突にこう聞くのだ。
「誰かに銃口を向けたことはある?」
すると、とっさにシャガイエはこう答える。
「脅しに使うだけ。撃ったことはない。人を刺したことはあるけどね。本当に憎い人しか撃てないわ。簡単に人は殺せない。叔父ならできるかも」──そして、彼女は、叔父から12歳で性的虐待を受けたことを告白する。その地獄から逃れるようにして、家出をして、生きるために犯罪を繰り返してきた。
ひとからげに「殺人犯」と呼んでいいのか
一方、アヘンなど薬物を濫用して家庭内暴力を振るっていた父を、母と姉とともに殺したというソマイエは、落ち着き払った様子で監督のインタビューに答える、その表情からは希望や悲しみなど感情の起伏は読み取りづらい。
だが、ソマイエは、「昔の父は別人のようで大好きだった」とも打ち明ける。監督が「ここは “痛み” だらけだね」と向けると、彼女は「四方の壁から染み出るほどよ。もうこれ以上の苦痛は入りきらない。ここのみんなは同じような経験をしている。だから一緒に過ごせる」と答えた。