ポスト資本主義の時代に「アジア的価値観」が求められる理由

野田智義

資本主義においてビジネスの成功を追求してきた現代社会だが、まるでタガが外れたかのように、シリコンバレーの足元で広がる深刻な所得格差や、相次ぐスタートアップの不祥事、経営側の倫理観を問う声に、ある意味「資本主義社会の限界」を見る人も多いだろう。

一方で、データ・ドリブンやテクノロジー・ドリブンが行き着いた先、ロジックだけでビジネスを成長させる難易度は増し、より美意識や直感といった「センスメイキング」に、その活路を見出そうとする潮流も生まれてきている。

オフィス家具メーカー・オカムラとForbes JAPANが共同制作する『WORK MILL with Forbes JAPAN』では、過去4号にわたり、デンマークやイギリス、アメリカなど欧米のスタートアップやブランドなどを取材してきた。そのなかで、各企業のキーパーソンがこぞって共感を寄せていたのが、禅思想といった「アジア的な価値観」であった。

10月9日に赤坂インターシティAIRで開催された、オカムラとForbes JAPANの共催による『WORK MILL with Forbes JAPAN』第5号の発刊イベントでは、「『アジア的』働き方」と題し、資本主義の岐路に差し掛かる世界がいま、「アジア的価値観」を求める理由について、有識者や経営者などを招いて議論を深めた。

今回はそのセッションの中から、大学院大学至善館理事⾧であり、NPO法人ISL(Institute for Strategic Leadership)創設者の野田智義氏の講演をお届けする。モデレーターはWORK MILL編集長の山田雄介によって行われた。




システム化で失われた「人間らしさ」


ハーバード・ビジネス・スクールで経営学博士号を取得し、ロンドン大学経営大学院(LBS)・インシアード経営大学院(INSEAD)助教授を経て、2001年にISLを創設した野田氏は、自らのキャリアを「MBAの申し子であり、資本主義の権化のよう」だったと振り返る。

そんな野田氏が、アメリカ型の市場原理主義に疑問を抱くようになったのは、LBSやINSEADといったヨーロッパのビジネススクールでさえ、“アメリカ追従型”のMBA教育に傾倒していると感じたからだという。

2018年、野田が開学した大学院大学至善館は、「西洋の合理性と東洋の精神土壌の融合」をビジョンに掲げ、従来のMBA教育から一線を画す独自の全人格経営リーダーシップ教育を実践してきた。

「決して西洋を否定するわけではありません。西洋とアジアの価値観を橋渡しし、未来に向けて調和させていく必要があると考えています」

西洋とアジアの価値観は、まるで陰と陽のように対になっていると野田は語る。

「西洋的な価値観を定義するとすれば、『個人』と『自由』に象徴されます。キリスト教文明において、人間は、絶対的な存在である神との契約をもとに被造物として存在し、そこから出発して、個人としての自由を追い求めてきました。一方、アジア的……非西洋圏とも言えますが、そこにおける価値観は、『私』の中にも仏性やカミが宿り、自らの中に真実がある。そして他者や自然とともに全体を構成し、生きとし生けるものとして共に生きる。『全体』への帰属と『共生』の観念に象徴されるのです」
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文=大矢幸世 写真=ラン・グレイ

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