キャッシュレス推進のいま、改めて「お金」の未来を考える。heyがアートイベントに込めた思い

hey代表の佐藤裕介

「お金」から手ざわりがなくなった──。

金融資本主義や市場は制御不能となった。日々、新たな金融サービスがローンチされている。では、変化が激しい時代にその行く末を託すべきは誰だろう? それは企業や行政、アカデミアではない。そう、いつの時代も「炭鉱のカナリア」としてあり続けてきたクリエイターではないだろうか。彼、彼女らと「つくりながら考える」ことで、その未来を少しでも手繰り寄せたいと思う──。

そんな考えのもと、コイニーとストアーズ・ドット・ジェーピーの経営統合により生まれたheyとレーベルオーナーやリサーチャー、編集者などを中心に今年、創業されたディレクションチームであるCANTEENが「お金についてともに考える」きっかけを提供する参加体験型の企画展 SCOPE「Untouched──お金(の未来)を手さぐる」展を12月14、15日の2日間、表参道にあるBA-TSU ART GALLERYで開催する。

同展ではデザインリサーチャーやアーティストらとともにお金に関する「制作を通じた探求」を実施。それに基づく8つの作品の展示と、3つのテーマに即した8つのトークセッションを開催するとのこと。作品の制作にはスペキュラティヴ・ファッションデザイナーの川崎和也​​や第5回ハヤカワSFコンテスト受賞者であるSF作家の津久井五月などが関わっているという。



さまざまな美術館で企画展が開催されているが、「お金」がテーマになっているのは珍しい。なぜ、今回 SCOPE「UNTOUCHED──お金(の未来)を手さぐる」展を開催することにしたのか。hey代表の佐藤裕介に話を聞いた。

一度立ち止まって、お金について考える機会を

──今回の企画展を開催することにした経緯は何だったのでしょうか?

企画自体を発案したのは、弊社のCI(コーポレート・アイデンティティ)を手がけた松本隆応を中心にしたチームで、heyの会社としての活動とは別のものです。彼らがビジネス的な側面ではなく、啓蒙活動に近いような形で「お金」をテーマにしたイベントをやりたい、と提案してきてくれて。それで話を聞いてみると、自動車が生まれたことで“便利さ”を手にした一方で、同時に交通事故も生まれている、と。私たちも“お金”を事業のテーマにしているからこそ、一度立ち止まって“お金”について考える機会を設けるべきと言ってくれて、確かにそうだなと思ったんです。

昨今、キャッシュレスを推進する社会の大きな流れもあり、スマホ決済事業者が導入費用がかからず、手数料が無料であることを強みにして、店舗に営業をかけている。社会の大きな流れもありますし、店舗側もデメリットはないので導入するわけです。

もちろん、この座組みにはカラクリがあって、スマホ決済事業者は店舗から顧客の購買情報や、どの顧客がどのくらいの頻度で来店しているのかといったデータが欲しい。そのため店舗側がコストをかけることなく、導入できるようにしている。

スマホ決済サービスを導入することで、顧客の利便性は確かに向上します。ただ、今まで店舗側は“自分たちのお客さん、自分たちの場所”として営業活動をしてきたのに、店舗のデータがスマホ決済事業者に吸い上げられ、それが何かしらの形で利活用されている。そのデータから生み出されたお金は店舗側にだけ還元されるわけではないのに、です。また、銀行口座やクレジットカードを持たない方、ネットリテラシーが高くない方にとってスマホ決済は全く蚊帳の外で、海外では問題視されつつあります。
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文=新國翔大 人物写真=小田駿一

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