伝統の家具をアップデート 同志とつくった「母なる椅子」

KEISUKE MATSUSHIMA NICE。大城健作さんと製作したキアバリチェア

イタリア・ミラノを中心に活躍するインテリアデザイナー、大城健作さんは、同い年ということもあり、僕にとってはヨーロッパで戦う同志のような存在です。

大城さんは高校を卒業してすぐにイタリアミラノに渡り、人生の半分以上をすでにヨーロッパで過ごしています。職種は違いますが、彼はイタリア、僕はフランスで、日本人というアイデンティで勝負するのではなく、ヨーロッパにローカライズし、現地の人たちと切磋琢磨しながら歩みを進めています。

今から3年前、僕は彼にお店の椅子の製作を依頼をしました。

すると彼は、まずは僕の料理を食べて、お店の雰囲気を感じ、価値観に触れてみたいということで、すぐにミラノから電車に揺られ、ニースに遊びに来てくれました。

僕の料理は、第一に地元の食材ありきで、その土地に根付く伝統的なレシピを、日本人というフィルターを通して再構築するようなアプローチをとっています。

既にあるものをベースに、余計なものをそぎ落とし、繊細かつ、現代的にアップデートする。食事をした大城さんが、それをすぐに感じてくれ、インスピレーションを得たのか、僕たちはそこで「CHIAVARI CHAIR PROJECT for KEISUKE MATSUSHIMA」というプロジェクトを立ち上げました。

伝統の家具をアップデート

ジェノバの先に位置するキアバリは、地中海沿岸のリグーリア地方の都市として、ニースと文化的、歴史的背景に共通している点が多くあります。キアバリは1800年初頭から家具が盛んに作られてきた地域ですが、現在では残念ながら2社ほどしか残っていません。日本と同じく伝統の継承が課題となっています。



他の家具産地との違いは、単純な製材機の使用以外はほぼ手作業で行い、新しい技術を使用せずラフに製材した木を丁寧に削って形を作り込んで行く点にあります。そこには、試行錯誤の上に完成した形があり、知性に基づいた技術がある。製造工程には時間を必要としますが、生まれてくる椅子からは深みのあるエレガントな佇まいを感じ取ることができます。

これらの工房は歴史的な椅子を反復して作り続けてきたこともあり、ゼロから新しい椅子を作ることには向いていない。このプロジェクトでは、歴史的なモデルである椅子を基に、職人とやり取りを重ね、可能性をさぐりながらデザインを進めて行きました。僕の料理と近いアプローチです。
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文=松嶋啓介

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