ビジネス

2019.10.30

「茶色いダイヤ」に懸ける。元日本代表の起業家、鈴木啓太の不眠の日々と闘い

鈴木啓太


「茶色いダイヤ」とも称される検体から、新たに生まれるビジネスチャンスにこそ、鈴木の起業した意味がある。しかしAuBの創業からこれまで4年間の道のりは決して平坦ではなかった。当初は組織としての方向づけと資金繰りに苦労した。創業時の自己資金4000万円に加え、エンジェル投資家から1.3億円を調達したが、今年、資金が枯渇する危機にも直面した。

「研究開発系の事業には資金が必要ですが、検体は1000以上あって、それらを分析管理するのは結構な投資です。4月にはあと2カ月で資金が底をつくような状態になったのですが、以前から働きかけていた複数の投資家からの出資が決まり、事業の継続が可能となった。会社を興してから最もきつい日々で、出資が決まるまでは倒産も頭をよぎり、眠れない毎日でした」

今年10月にはヒトの健康に効果的な菌を摂取できるサプリ「AuB BASE」を発表。クラウドファンディングで先行販売を開始した。商品の発表から1日経たず目標の100万円を達成。支援者の数もすぐに450名を超えるなど、反響は上々。研究開発のベースとなる資金獲得の期待も高まる。だが不眠の日々からこれで解放かと問うと、「いや、当然またあると思いますよ」とまた笑う。そういった不安との闘いは選手時代から変わらないという。

「レッズのころでも試合に出られるかわかりませんでしたし、出たとしても今度は勝てるかどうか不安です。目標を達成する喜びなんてつかの間、すぐに次に立ち向かわなければならない。日本代表になってもずっと不安との闘いでした」

究極の目標は「アスリート5000万人計画」。国民2人に1人が身体コンディションに高い意識をもつ社会の実現だ。

「スポーツはいずれ日本の産業のセンターピンになると思う。そこに我々のようなヘルスケアに加え、教育やサイエンスの分野が参入することで、より産業の裾野が広がると思うんです」

鈴木は日本代表に何度も選出されながら、オリンピックとワールドカップには縁がなかった。現役を退きスポーツビジネスにピッチを転じた彼が、その頂に登るのは意外に早いのかもしれない。

※この度、Forbes JAPANは初めてとなるスポーツビジネスアワードを開催。業界の第一線で活躍するアドバイザーの協力を得て、スポーツの新たな可能性を引き出したベスト・スポーツビジネスの取り組みを5つのカテゴリーごとに選んだ。その栄冠に輝いた5組にインタビューした記事を2019年10月26日から順次公開する。

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鈴木啓太◎AuB株式会社代表取締役。2000年浦和レッズに入団し、2015年に引退するまで379試合に出場。イビチャ・オシム率いる日本代表に選出され、唯一全試合先発出場。

文=武田頼政 写真=宇佐美雅浩

この記事は 「Forbes JAPAN 「スポーツ × ビジネス」は、アイデアの宝庫だ!12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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