ビジネス

2019.10.31

日本の企業文化に魅せられたインド人が、中東三井物産の副社長を務めるまで

撮影:原 哲也


才能は絶えずチャレンジを求めている

アシュラフ:インタビュー前に吉田さんのプロフィールを拝見しましたが、吉田さん自身も非常に興味深いキャリアを歩まれていますね。そこから感じるものも多くあったのではないでしょうか。

吉田:そうですね。私は大企業、ベンチャー、独立と経験しました。絶えず新しい景色が広がっていったので、「我々人間はたとえどこまでいったとしても『井の中の蛙』でしかない」ということがよく分かりました。ただそれでも「前よりは少しだけ大きな井戸に移動する」ことはできます。間違っても「自分はグローバルに活躍しているし、『井の中の蛙』ではない」といった誤解はしないようにしています。そうすると「次の井戸」に移動するチャンスを逸するばかりか、いつまでも自分が同じ井戸の中にいることにすら気付かなくなってしまうと思うからです。

アシュラフ:面白い話ですね。「才能は絶えずチャレンジを求めている」が私の持論なのですが、それに共通する話のように思いました。



先ほど「業界」、「地域」、「自分が果たす機能」、「取り巻く文化」と4つの軸を大切にしているとお話しましたが、これも「才能は絶えずチャレンジを求めている」からこそです。

日本企業の海外ローカル社員は、「地域」と「業界」を固定で働いていることが多く、結果としてスペシャリストが増えていきます。もちろんスペシャリストは大事ですが、企業が時代の変化に柔軟に付いていくためには、先ほど述べたような4つの軸で機敏性を持って動き回れる人材も必要です。この両者のバランスで言うと、いまの日本企業の海外ローカル社員はスペシャリストへと偏りがちです。

今後、日本企業は海外ローカル社員に対しても「いろいろな軸を持ってグローバルに価値を生み出すことを期待しています」としっかりメッセージ発信をしていくことになります。

吉田:日本企業の海外ローカル社員の間にも、その感覚が浸透していくと良いですね。

アシュラフ:私は前職も合わせると計26年間にわたり日本企業に勤めてきましたが、実は日本語が話せません。これは「失敗である」とも言えるのですが、私なりの言い訳をさせてもらえるのであれば、「私は日本人にはない価値を会社に対して提供し続けた」のです。

私が日本人化したところで、三井物産の中には日本的文化をしっかり理解できる人材はもう十分にいます。私の存在意義は異なる視点、異なる価値観を持ち込むことであります。会社側にはそれを受け入れる体制が求められますし、今後更なる海外ローカル社員の活躍によりこの流れは加速するでしょう。

海外ローカル社員は日本のことを何も分からなくて良いと言っている訳ではありません。日本企業なので、日本の顧客も居ますし、日本に対する理解は必要です。ただし私のように良い意味で日本との距離を保ちながらも、日本組織の中で価値を提供することはできるのです。

吉田:グローバル化、多様化が進む中で、日本企業の戦略も日本人が集まって考えるだけではなかなか本質を捉えるのが難しくなっていると思います。アシュラフさんのような人が日本企業の中で増えることで、日本企業もグローバルな存在感をより一層発揮していくのだと感じます。



連載:『グローバル化2.0』時代に活躍する
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文=吉田健太朗 写真=原 哲也

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