ビジネス

2019.10.31

日本の企業文化に魅せられたインド人が、中東三井物産の副社長を務めるまで

撮影:原 哲也


グローバルに活躍するために大切にしてきた「4つの軸」

吉田:アシュラフさんは三井物産に入社した後、いろいろな地域でご活躍されていますね。

アシュラフ:インドで入社しましたが、2011年以降は日本で3年以上、東南アジアで4年以上を過ごし、今はドバイにいます。その間、かかわっている業界も変わっています。

私にはビジネスと向き合う際に大切にしている4つの軸があります。「業界」、「地域」、「自分が果たす機能」、そして「取り巻く文化」です。4つ目に挙げた「文化」はもちろん、プロジェクトが実施される「地域」の影響を受ける訳ですが、それに加えて、異なる国籍の顧客など、さまざまな要素が関係してきます。

そして私自身は「この4つの軸を持って縦横無尽に動き回れるような柔軟性を持ち続けたい」と思っています。私は新しいビジネスに携わる、新しい顧客と出会う、そこで学び続ける、そういったことに喜びを感じるからです。三井物産に来てから私が各地を飛び回っているのは、私自身が目指したいキャリアをしっかりと体現している結果と言えるでしょう。



吉田:アシュラフさんは日本人ではないことで、日本企業の中で活躍する難しさを感じることはありますか。

アシュラフ:私自身は不自由さを感じたことはありません。ただし、日本企業の海外法人に勤める現地採用社員が全員、私と同じようにバラエティーに富んだキャリア形成を望んでいる訳ではないと思います。「同じ業界で、同じ仕事をし続けたい」と考える人も多いでしょう。どちらのタイプの人間も、会社にとっては重要なのです。

吉田:確かに日本企業の海外ローカル社員は「同じ役割を担い続ける」というイメージがあります。ただアシュラフさんのように特定の領域に捉われずに活躍の幅を広げていく人がこれから日本企業の中でも増えていくのでしょうね。

アシュラフ:日本企業が世界各地で事業を拡大するためには、各国の顧客のニーズをしっかり捕まえていく必要があります。またグローバル化が進む世の中で、日本で考えた戦略を世界中に落とし込んでいくだけではプロセスとして少し無理があります。各地でローカルにしっかりと戦略を考えボトムアップで提案できる人材が日本企業にも求められます。そのように考えていくと、いままで以上に海外ローカル社員を会社のマネジメントレベルに配置していくというのは自然な流れなのです。

人材を育成する際には、実践を通じて個々のスキルを高めることも重要ですが、「適材適所」に人材を活用してあげることも肝要です。「グローバルなニーズをしっかりと捕まえる」、「地場に根付いた戦略を策定しボトムアップで提案する」と述べましたが、これらを実行していくために必要な人材がしっかりとその能力を発揮できる環境を整えてあげることが企業側には求められていきます。

吉田:「外国人」が重要な役職に就いていくのは、日本企業にとって避けられない流れですね。アシュラフさんを成功事例に、この傾向が日本社会全体で加速すると良いですね。

アシュラフ:そのためには、日本企業が海外の文化を受け入れていかなければなりません。ただし、これは双方向に働くものです。つまり日本企業で活躍しようとする外国人も、日本文化に対する理解を示していかなければなりません。
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文=吉田健太朗 写真=原 哲也

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