原料は米だけでなく、パートナー企業との協業によって広がっている。
JR東日本グループの経営資源を活用し、新たなビジネスやサービスを創出する「JR イースト スタートアップ プログラム2018」に選出され、提供された青森県産のリンゴの搾りかすで、今年「MUSUBI 青森りんごで作ったエタノール」という名のルームスプレーとアロマディフューザーを商品化。さらにエタノール抽出の過程でできた香りの良い発酵粕を家畜用飼料にして、地域の農家の牛に与え、その肉を東北レストラン鉄道で提供するなどして、東北地域で循環させる取り組みを始めた。
ファーメンステーションがJR東日本との協業で製品化した「青森りんごで作ったエタノール」
JR東日本の子会社で、ベンチャーへの出資や協業を推進する「JR東日本スタートアップ」のディレクター竹内淳も登壇。「無駄なものを無くす社会にしたい」という酒井の熱量を受け、ファーメンステーションと協業するようになったエピソードを語った。
そこでJR東日本グループにおいて「ゴミ」として廃棄しているものは何かを考えた時、グループ会社のJR東日本青森商業開発が運営する青森駅隣接のシードル工房「A-FACTORY」の製造工程で発生するリンゴの搾りかすに着目したという。酒井は「やったことがないですが、やってみましょう」と挑戦し、商品化にこぎつけた。
ファーメンステーションの酒井(前列左)の隣で協業について紹介する竹内淳
竹内は、「(一般消費者の)価値観が多様化する中で生まれるギャップをどう乗り越えていくか。スタートアップの場合、動きが早くていろいろなトライを回せるので、こういった協業を通じて、掛け算することで、スピード感を持って社会により大きなインパクトを与えられる」と語った。酒井も「大企業と組むことで、リーチできるところが違い、市場をつくるためにご一緒できるのはとても良いこと」と話した。
小さなきっかけから始まる協業の好例
「ヘラルボニー」は「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニット。2018年に創業した。全国の知的障害のある作家が描くアート作品をプロダクト化するほか、自治体や企業などとタッグを組み、工事中の現場にそのアートを掲示する「全日本仮囲いアートプロジェクト」などを展開している。松田崇弥と文登の双子の兄弟の持つストーリーが共感を呼び、注目されている。
全国の福祉施設とアートマネジメント契約を結び、1000点以上のアートを預かる。今年夏にはファッションブランド「TOMORROWLAND」とのコラボレーションのハンカチを商品化。知的障害者によるアートワークであることを全面的に打ち出していないものの、ZOZOのハンカチ部門の売り上げは1位になり、話題を呼んだ。
ヘラルボニーが展開する知的障害のあるアーティストの作品を活用した商品
今回は、主にパナソニックとの協業事例を紹介。きっかけは、これからの100年をつくるU35のリーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラムに選ばれ、渋谷の100BANCHのシェアオフィスに入居したことからだった。100BANCHは、パナソニック、ロフトワーク、カフェ・カンパニーが2017年に共同開設した複合施設。ヘラルボニーの選考の際には、「このミッションを応援したい」という選考者の思いが、決め手になったそうだ。
2019年1月からは、「Panasonic Laboratory Tokyo」のオフィスエリアの壁紙として、ヘラルボニーが契約を結ぶ、岩手県・花巻市のるんびにい美術館の所属アーティストの作品を展開している。10月からは、100BANCHの横断幕に、ヘラルボニーの「宇宙」をイメージしたというアーティストの作品が登場し、建物に彩りを添えている。小さなひとつのきっかけが、大きな展開に繋がった協業の好例と言えるだろう。