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2019.10.24 16:30

6人のクリエイターが示す「次なる仏壇」の形 創業190年・京仏具の挑戦


京の職人が見せた技術力と粋な計らい

彫刻家で京都を拠点にクリエイティブ・プラットフォーム「SANDWICH Inc.」を主宰する名和晃平は、アーティスティックに新たな仏具の形を解釈し、木の素材を生かして鳳凰を表現した。現在、制作途中で、最初の掘り出し段階だという。「3Dプリンタの中で造形すると持たない構造でも、木で作ることで軽やかに実現する。古い技術と新しい技術を合わせることで、重力に抗うように凜と立っている」と名和は説明する。

「今回のプロジェクトを通して、京都の何百年、千年の規模で培われた造形の技術が優れていると知ることができたのが何よりの収穫」と語った名和。制作過程での印象的なエピソードを聞くと、仏師から「正面と側面の設計図だけあれば実寸大で表現できる」と言われたことだという。鳳凰の形状は複雑になり、結局「斜めの図も欲しい」と言われたが、その再現性の高い職人たちの技術力を身を持って体感したという。

では、名和は、なぜ鳳凰の形にしたのだろうか。自身が創作したいものを考えたとき、「考えれば考えるほど、仏壇ではなくなった」という。

2003年に京都市立芸術大学大学院博士課程を修了した名和は、学生時代からさまざまな寺を訪れ、それぞれ異なる鳳凰の形にも着目していた。「鳳凰は時代を乗り越えて存在し、いまの世の中を冷静に眺めているイメージ」だと語る。「不安で先が見えないいまの時代に、超越的な存在と向き合う」ことで、仏壇というフォーマットが消え、芸術品として昇華させた。今後、仏師により精度の高い彫りが加えられ、塗師や箔押師によって仕上げられていくのだという。

ペットのための仏壇も

「ザ・ペニンシュラ東京」などのホテルを中心に、内装などを手掛けるインテリアデザイナー橋本夕紀夫は、絢爛豪華なイメージである仏壇を20cm幅までスリム化し、高さを伸ばした。仏壇の「寺院のミニチュアとして家庭に祀っていたという建築的側面」を受け継ぎ、屋根の部分は木地師と相談しながら、下に逆ピラミッド型の組み木をあしらい、独自のデザインにした。


橋本夕紀夫(右)が『magokoro』を紹介する様子 (筆者撮影)

金箔を施した箱は扉で閉じるようにできており、シンプルで機能的な形になっている。足元の引き出しには、線香やおりんなども仕舞うことができる。「職人さんが楽しんで工夫してくれたため、脈々と流れてきた仏壇のイメージを壊さずに、新しいデザインを考えることができた」と振り返る。


橋本夕紀夫『magokoro』 (筆者撮影)

最後に紹介するのは、ペットのために考えられた仏壇だ。京都生まれのデザイナー眞城成男が手がけたもので、彼は現代的なデザインと伝統工芸を結びつける創作活動をしているが、仏壇を手がけるのは初めてという。

「見立て」がしやすいような形式をとっており、好きな形に組み立てることができる。変形モデルとして壁掛けにもできるようにしたという。ペットのハーネスなどのアイテムや写真、線香などが置ける棚のような形になっている。


眞城成男『Perch』

「レゾンデートル」の1stコレクションの展示会は10月27日まで、午前11時~午後7時にGUM表参道(東京都港区北青山)で開かれている。それぞれオーダーメイドのため、参考価格(名和は未定)だが、約40万円から428万円まで。決して安価ではないが、新たな伝統工芸品として手に入れたいコレクターたちも出てきそうな勢いだ。

文=督あかり 写真=若林佛具製作所

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