ハートの箱に「遺データ」を
NYのギャラリーなどでアート作品も発表してきた建築家でプロダクトデザイナーの板坂諭は、仏壇に代わる「箱」を考えた。ハート(心臓)を連想させる形のケースに、故人の指輪などが入れられる小物入れや香炉、花生けなどをつくった。
板坂は、仏壇に代わるものを考えたとき、「市場の開拓」と「伝統の構築」を2本の軸に、世界の市場にも目を向けた。「これまでの宗教的なしがらみやルールを取り外し、どこまで外していいか追求した」という。海外では故人の写真を入れるペンダントがあるが、次なる世代の仏壇には、故人のデータである「遺データ」を手元に置いておくための箱という機能も想定した。
ちなみに、このビビッドなピンクなどの色合いは、何の色だろうか。
板坂諭『animus』
答えは、「漆」の色だという。板坂が職人に「こんな色は無理ですよね?」と尋ねたら、「見事にクリアしていただき、3Dプリンタより高い精度の想像をはるかに超えたものをつくってくださった」と明かした。
続いて、2020年に完成予定のドバイ万博日本館や新宿歌舞伎町の高層ビルなどを手掛ける永山祐子は、建築家らしい発想で仏壇を新たな形へと導いた。永山は、自分の暮らしを振り返ると、仏壇に馴染みがなかったという。「忙しい現代人が、ほっとする場所としてお仏壇を考えてもいいのでは」と、仏壇を故人を祀る場所だけでなく、日常とは違ったメディテーションのひとつとして再解釈し、お寺のような形の厨子にした。
名前は『玉響厨子(たまゆらのずし)』。扉を閉じた状態では、木目の温もりが感じられ、繊細な截金文様が施されている。屋根の部分は、さまざまな伝統建築の形状を見て、薄い木材を使用し、反り上がったように見える「こけら葺き」をアレンジし、設計した。
永山祐子『玉響厨子』
外観はシンプルだが、扉を開けると、異世界が現れる。内部は水面のように波打つ蒔絵が、ロウソクが灯るように浮かび上がるのだ。永山は「ハレとケのように、日常の風景に溶け込みながらも、違う世界が広がるこの一瞬の時間から、たまゆらと名付けました」という。
永山祐子『玉響厨子』