540psを発揮するV8搭載のGTS仕様が最高の走りを提供してくれると思いきや、同エンジンをさらにチューンさせた590psのフラッグシップ仕様のトロフェオに乗ると、思わず大声で「イェス!」と叫びたくなる。
イタリアの地方を走り抜けるマセラティの「レヴァンテ」。
紙幅に限りがあるので、トロフェオを中心にお伝えしたい。「ブワ〜〜」というエキゾーストノートは本当に病みつきになる。気づかないうちに、その低音の振動がブルブルとキャビンを響かせるのが気持ちよくて、いつもより頻繁にダウンシフトしたくなる。このV8には津波のようなパワー感がある。車重が2t以上なのに、アクセルをさりげなく踏んでいくだけで猛烈な加速感によって体が運転席に激しく押さえ込まれる。8速A/TとAWDシステムが、その限りのないトルクを後輪に送るのだが、必要に応じて50:50で後輪と前輪両方に直ちに送り込むこともできる。こんなに大きくて重いSUVなのに、レースカーみたいな走りまでできてしまってまずいな。
それに、足回りとコーナリング性がとても優秀だ。乗り心地は意外にしなやかで、重心が高いのにロールを拒否するような感じである。走行モードのスイッチを長押しして、コルサ、すなわちレースモードで走ってみた。コルサモードでは、車高が2cm下がるし、スロットルレスポンスが敏感になり、ステアリングと変速シフトがよりクイックに変わる。
しかも、あの野獣の吠え声のようなエキゾーストノートがさらにヤバくなる。それなのにトロフェオは、プッシュすればするほど応えてくれる。ステアリングが適度な重さで正確にターンインしてくれるし、6ポットの強力な大型ブレーキがついているので、ブレーキフィールがよく、制動力は十分と言える。
伝統と情熱が作った“クルマの味”
レヴァンテはまるでボットゥーラの料理のようだ、と筆者は語る。
前出のシェフ、ボットゥーラは、材料とアイデアと情熱が味の決め手だと言う。
「僕がキッチンで料理するものと、マセラティのエンジニアがデザイン・スタジオで作るものには深い共通点があると思います」と強調する。
「やはりおいしいものを作るのには時間がかかる。チーズでも数年、バルサミコなら25年も。それこそ伝統です」
つまり、マセラティは105年もクルマを作ってきたからこそ、レヴァンテもじっくりと時間をかけて進化させることができた。そして、だんだんとその情熱と味わいが出てきたわけだ。
今回乗ったトロフェオとGTSは十分においしかった。次に機会があれば、ぜひボットゥーラの料理の味を試してみたい。
ピーター・ライオン◎モータージャーナリスト。西オーストラリア州大学政治学部 日本研究科卒。1983年に奨学生として慶應義塾大学に留学。Forbes、Car and Driver(米)、Auto Express(英)、Quattroruote(伊)などへ寄稿多数。ワールド・カー・アワード賞会長のほか、日本カー・オブ・ザ・イヤー賞選考委員を務めている。