ライフスタイル

2019.10.26 16:00

古都で結ばれたマセラティと料理。ブランドを育てる極意とは

伊エミリア=ロマーニャ州の古都、モデナ。バルサミコ酢で知られる同市には、もう一つ、特産品がある。それは、“クルマ”だ。マセラティ、それにフェラーリ━━。同地を訪れた筆者がそこで見た、ブランドを育てる極意とは。


イタリア北部の都市「モデナ」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか? 世界一のレストランだろうか。2018年に「世界のベストレストラン50」で世界一に選ばれた「オステリア・フランチェスカーナ」と、そのシェフであるマッシモ・ボットゥーラが話題になっている。とは言っても、ミシュラン3つ星獲得のその店よりも先に思い出すのは、モデナを故郷とするフェラーリやマセラティではないだろうか。

じつはさる7月、マセラティ初のSUV「レヴァンテ」の新車種であるGTSとトロフェオの試乗会に参加するべくモデナに足を延ばしてきたばかりだ。105年の歴史をもつ同メーカーがどれだけモデナの生活や文化に溶け込んでいるかというと、同市の中心地にある広場からレヴァンテの試乗会をスタートさせられるほどだ。さすが!

世界一のシェフにもなったことがあるボットゥーラは、15年からマセラティのアンバサダーとしてギブリSQ4に乗っていたのだが、16年に本社へ返却しに行った際、驚くことに、当時のマセラティCEOのリード・ビッグランドから新型レヴァンテを引き渡されたという。


「オステリア・フランチェスカーナ」のシェフ、マッシモ・ボットゥーラ。

「このSUVレヴァンテにインスパイアされて作った料理が、まだメニューに載っています」と、ボットゥーラは話す。

「やはり、マセラティのV8の音は情熱そのもので、私が作る味だって情熱そのものですよ」

こういう交流によって、クルマと料理の世界が互いをインスパイアし合うことは素晴らしいと思う。欧米では、「男性のハートをつかむには、まず胃袋から」という諺(ことわざ)があるほどだ。両者が結びついた関係は自動車業界の中でも珍しい。ハラルド・ヴェスター現CEOが言うには、「ボットゥーラ氏が常にメニューにより素敵な一品を追加しようとしているように、マセラティも常にレヴァンテの『メニュー』をおいしくしよう」と、GTSとトロフェオの2台を追加した。

ボットゥーラの料理が如く……

マセラティの新メニューを見ると、レヴァンテにいかに刺激的なスパイスをかけたかがわかる。16年、V6エンジン搭載のグランルッソとグランスポーツという2台から、レヴァンテはよい滑り出しを記録しているのだが、今回はフェラーリ製のV8ツインターボ・エンジン仕様車を追加した。このエンジンは間違いなく、今回最大の特徴だ。ドアを開けて運転席に座ると、どこを見ても赤い本革にアルミニウムのアクセント。もちろん、タン色も黒もあるが、僕が与えられたのは赤い室内のクルマだった。シート、センターコンソール、ダッシュボードがすべてソフトで真っ赤な本革になっていて、ステアリングホイール、ギアセレクター回り、GPSディスプレー回りは品よく黒に彩られている。どこを触っても、とてもリッチな素材を採用していて、ドライバーにはその長くてパパッとシフトが決まる巨大パドルがたまらない。

まるで、ボットゥーラの“フルコース・メニュー”のようだ。見た目もきれいだし、五感を刺激してくれる。ボディラインが美しい外観を、ノーズからテールまでゆっくりと目で舐(な)めよう。大きなグリル、鋭いヘッドライト、その美しいヒップを眺めているだけで、何かいい予感がする。
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文=ピーター・ライオン

この記事は 「Forbes JAPAN 空気は読まずに変えるもの日本発「世界を変える30歳未満」30人」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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