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2019.10.24 17:00

「束の間フードコート」に「元映画館」 若者たちが遊休不動産に見出す新たな価値


映画館跡地にコミュニティスペース

同じく今年10月、東京・荒川区に「元映画館」というコミュティスペースがオープンした。その名の通り、かつて映画館だった物件を活用したプロジェクトだ。手がけるのは総合芸術会社のデリシャスカンパニー。1988年生まれ・東京藝術大学出身の半田悠人がやりたいことを詰め込んだ新規事業のために、オフィスのある荒川区で坪単価の安い物件を探し始め、条件に合う物件として見つかったのがかつて映画館として使われていた場所だった。

日暮里金美館。1922年に創業した映画館チェーンの最後の一館で、1991年10月23日に廃業。それ以後28年間誰にも使われることなく時が流れた。今ではこの場所が「日暮里金美館」だったことを知る者も少ない。

「近くに住む藝大生が集まり、地域と交流できるようなオープンファクトリーを作ろうと、企画書まで作っていたのですが、物件を見て、せっかくなら映画館を生かした施設にしたいと思いました」と半田。藝大時代の同級生でもある電通Bチームに所属する髙橋窓太郎に相談する中で「『元映画館』を使った施設ばかり考えているのだから、名前はそのまま『元映画館』がいいんじゃないか」と言われ、しっくりきたこの名前が採用されたのだという。


左から、半田悠人、髙橋窓太郎

「元映画館」という名前には、どんな思いが込められているのか。半田は答える。「再開発によって綺麗で感度の高い空間に作りかえることは簡単です。だけど、あらゆるものが更新されてゆく今の時代において、僕たちの知らない過去を少しでも残したかった。ただ、もうこの場所は映画館ではありません。だから『元映画館』と名付けたことは、この場所に存在した過去を想起させつつ、その過去を終わらせるデザインでもありました」
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文・写真=角田貴広

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