暇な時間こそが一番尊い
これだけの言葉をアウトプットするには、日々のインプットが欠かせない。一体、どうやってインプットしているのか。本人に尋ねると「俺の中で、暇が一番尊いと思っていて。ダラダラしながら、映画を見たり、ラジオや落語を聞いたりしています。そうやって過ごす時間が自然とインプットになっている。本当は本を読んで勉強しないといけない年齢になってきているのかもしれませんけど」と拍子抜けするような答えが返ってきた。ちなみに、好きな映画はホラー映画、落語家は桂米朝、柳家喬太郎、ラジオ番組は「山里亮太の不毛な議論」などだという。
現代人は、常にスマートフォンに目をやり、何かしらの情報を探し求めている。最近話題のマインドフルネスは「何もしないことをすること」だ。それにより、集中力や生産性が上がる。R-指定の暇な時間を好む姿勢は、彼自身は意識していないかもしれないが、結果的に「何もしないことをすること」になっている。こうしたオンとオフの切り替えは見習いたいところだ。
ただ、こうした中身が濃く、綿密な歌詞についてR-指定は今後への課題でもあるという。それはR-指定なりの独自の解釈と妄想で先輩ラッパーたちを大いに語った初の著書『Rの異常な愛情』(白夜書房、2019年)の中でも尊敬する先輩であるRHYMESTERのMummy-Dとの対談で指摘されたことでもある。「『情報量が多すぎる。感心することでもあるけど、リスナーになんでもない時間をつくってあげることも大事。Creepy Nutsの曲は、弁当に例えるなら揚げ物ばかりで、白米が入っていない』とアドバイスされました。そこは今後の課題です」という。
Creepy NutsにとってRHYMESTERは特別な存在だ。不良でもなく、平凡だった中学生のR-指定をラッパーへと背中を推してくれたのはRHYMESTERのアルバム「グレーゾーン」に収録されている「ザ・グレート・アマチュアリズム」だった。かつてTOKYO FMで深夜に放送されていた月曜「WANTED」をRHYMESTERが担当していた。同番組を聞き、相方の松永はヒップホップへのめり込んでいった。
本音こそが人に響く
現代では、日常生活ではLINEをはじめとするSNS、ビジネスシーンでも、メールやSlack、プレゼンテーション資料とテキストメッセージが主流だ。特にビジネスシーンにおいては、いかに人へ響く言葉を使うかが勝負の分かれ目となる。
言葉のプロフェッショナルであるR-指定に「人に響く言葉とは?」という疑問を投げかけた。「ホンマに思っていること、本音やったら響くんじゃないかと思いますね。言い回しだけ凝っても響かないというのは経験上あります。たとえば、俺の場合、ライブのMCのとき、粋な言い回しを予め考えても盛り上がらない。それよりはその時の感情を拙いけど言葉にしたほうが盛り上がりますね」。
美辞麗句を並べ立て、言葉を取り繕うよりも本心を言葉にする大切さは、リアルを描写するヒップホップに通じるのかもしれない。これまでヒップホップを毛嫌いしてきた人も『Rの異常な愛情』を読み、気になるラッパーの曲を聞いてほしい。そこにはリアルで、時に生々しく、本音の言葉が持つ重みを感じるはずだ。