またUAWは今年発表された白書で、補償金なしの解雇が発生する可能性があると認めており、適切な給料を得ることができる仕事を創出するための電気インフラの構築や、解雇された労働者を再訓練して工場に再投資する業界方針を推奨している。
自動車業界の専門家らは、環境問題など市場の条件の変化を受け、EVの台頭は避けられないということに概して合意している。自動車業界に関する予測を提供するウォーズ・インテリジェンス(Wards Intelligence)は、ガソリンを使わない車の売り上げが2025年までに3倍になるだろうと結論づけているし、JPモルガンのアナリストらは、ハイブリッド車やEVが2030年までに世界の全自動車の売り上げの60%を占めるようになるだろうと述べている。
しかし、こうした常識的な考え方が間違っていると考える人もいる。テスラのようなEVベンチャーの業績停滞からは、EVの台頭が避けられないという恐怖が誇張されていることが示されているというのだ。
この考え方に基づけば、今回のストライキは同組合の経営陣が抱える法的トラブルに関するもの、また組合員数が低下する中で組合の価値を維持するためのものだと言える。金融アナリストのジム・コリンズは「UAWは(現在の電気自動車のシェアを示す)売り上げの0.8%を巡ってストライキを行っているのではない。これは、従来型の自動車から構成される売り上げの99.2%を生産する権利を巡るものだ」と述べている。
しかし、現在の市場シェアにかかわらず、市場はEVの方向へと向かいつつあるようだ。米国外では特にそうだ。中国は2018年のEV売り上げを世界で先導し、中国政府は電気エンジン技術の開発に600億ドル(約6兆5000億円)以上を投資している。また世界の自動車業界は2018年時点で、EVと電池の研究に900億ドル(約9兆8000億円)以上を投資している。
ストライキの代償
ストライキに参加した労働者とその家族が払った犠牲を考えると、将来への懸念は全て少しぼやけたものに思えるかもしれない。ストライキを行う労働者の家族がストライキ手当として支給されたのは週にわずか275ドル(約3万円)だ。デトロイトの地元ニュースには、4万9000人以上のストライキ参加者とその家族が、予算の縮小によって厳しい選択に直面しているという話があふれている。
ストライキに関わっている労働者にとって、こうした犠牲は経済的に生計を立てるための良い給料や安定した雇用、払える額の健康保険料、信頼できる年金などを得るためのものだ。しかし産業界での争いには全て、より大きな経済的文脈が必ず存在する。当面の結果がどうなるにせよ、UAWの現在のストライキは自動車の将来と、自動車が生産される将来の労働環境に深い影響を与えるものだ。