銀行口座を持たない20億人を幸福にするテクノロジーとは──藤原洋氏に聞く

一般財団法人インターネット協会理事長 藤原洋氏


金野:そうしたアンバンクドの革命が日本発のイノベーションとなれば、日本の企業にとって大きなチャンスになるはず。しかし日本でデジタルトランスフォーメーションが円滑に進んでいるとは言えません。

日本が開発途上国と連携してこの分野でイノベーションを起こしていくことは、ブルーオーシャンのビジネスと言えます。開発途上国の人たちの幸福と日本のビジネスがウィンウィンになると私は考えていますが、専門家の目から見ていかかでしょう?

藤原:まず、何が日本のイノベーションの阻害要因だったのかを考えてみましょう。歴史的に見ると、財閥の金融資本が中央集権的な金融システムを形成し、個人や企業の信用のスタンダードを作ってきました。だから個人間取引や中小企業の自立が進まなかったのです。

一方、開発途上国では事実上個人がスマートフォンでデジタルマネーを送金したり受け取ったりできる。そういうしがらみのない国々と比較すると、日本は前例ありきの社会になっていて、新しいことができません。だから開発途上国は魅力的な存在なのです。

開発途上国では、新しいことが何でもできる。そこで成功したモデルを逆に日本に導入できる。開発途上国にはそういうチャンスがあります。私は起業家でもあるので、非常に注目しています。



金野:年収や資産、勤務先などで判断していた今までの信用の仕組みが変わりますね。お金や資産によらない新しい信用を見える化するツールとして、人工知能やブロックチェーン等のテクノロジーが出てきています。それらについてはどうお考えでしょうか。

藤原:今までの信用とは何か、という話から振り返りましょう。封建主義の時代の信用は、過去の資産でした。富を蓄積した人、あるいはそれを継承してきた人に価値があったのです。資本主義になってそれが多少変わりました。新しいものを作り出し、会社を作って資産を築く人もいます。しかし、それも古くなりつつある。

なぜ、資産が信用につながるのか。これは、人間が未来を予測できないからです。本来は、過去に築いた信用ではなく、未来に何ができるかで評価することが望ましい。でもそれができないから、過去の資産で評価していたに過ぎません。

しかしこれからは、デジタルテクノロジーによって未来の評価ができるようになる。一例を挙げると、アリババの信用評価です。

中国では急速な経済発展で、沿海部と農村部の間で所得格差が拡大している。沿海部の人たちは銀行口座を持っているのに、農村部の人たちはそれがないから、信用評価にも格差がありました。しかしアリババがアリペイを始めて、購買履歴を瞬時に判断するようになり、1.5秒で信用調査できるようになりました。これは、未来の経済活動力を評価できるのです。

スマートフォンを持っていて、アリペイを使っている人は7億人と言われていますが、彼らの購買履歴からひとりひとりの信用力が格付けされるのです。

人を経済力で格付けするのはどうなのかという問題もありますが、現実には、今までチャンスがなかった人たちにも融資が行くようになり、アリババが新規事業に資金提供するようになりました。テクノロジーにより、銀行口座のない人が経済活動に参加できる可能性が出てきた。中国でそれが実証されています。

ただし、中国という社会は他の国とは違った政治システムを持っています。個人情報に対する考え方一つをとっても全く違いますから、そのモデルが日本や世界に通用するとは言えませんが、共通点は見い出せます。本質は「未来への信用」なのです。
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文=金野索一

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