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2019.10.23

なぜ山口周のツイートはエンゲージメントが高いのか?

山口周


一方で山口は、インフルエンスされすぎるのはどうかとも思っている。「インフルエンスという言葉で思い出すのはナチ。あれはラジオというテクノロジーの進化によって成立した現象だった」とし、同じくテクノロジーであるSNSで、好きな人ばかりフォローすると「ネットワークがクローズし、偏っていく」と警鐘を鳴らす。

実際、2016年の米大統領選挙の際、それは山口の身に起こっていた。「海外の友人を含め、僕の周りはみなヒラリー・クリントンを支持していて、彼女が当選するものだと思っていた。ところが、ふたを開けたらトランプの勝利。自分のまわりがいかに民主党寄りだったのか気づかされた」

先人から受け取った火を灯していく

本を出すほどに、山口には主張も提案もある。けれど、それを押し付けよう、推し進めようとしている印象はない。では、自分がインフルエンサーであるとして、何をしたいのか聞いてみると、好きなエピソードとして、公民権運動の母、ローザ・パークスの話をしてくれた。

1955年、人種分離法のあったアラバマ州で、白人にバスの席を譲らなかったパークスは逮捕されてしまう。それを知ったキング牧師がバスのボイコットを呼びかけると、多くの市民が賛同。市のバス事業は大打撃を受ける。のちに、最高裁はパークスの訴えを認め、人種分離を違憲と判決。この勝利が公民権運動を大きく動かしていく。

「この時、人々を動かしたのはパークスの“生き様”です。自分の尊厳にかけて、フェアじゃないと思うことをやらなかった。はるか遡れば、イエス・キリストも『宗教のために人があるのでなく、人のために宗教がある』という信念を貫き、その生き様で人々に影響を与えた。言葉ではなく、黙々と取り組むこと。SayingよりDoing、Beingです」

言うは易く行うは難し、ということだろうか。それを山口に当てはめると、「押し付けず、黙々と発信する」のが彼の生き様かもしれない。

「世の中には結果を早く出したがる人がいるけれど、僕は早さとか数字とか、そういうものに興味がない。先人からもらったバトンを、次に渡していければいいと思っている」。受け取った火種を灯していく──火事のように一気に燃え上がらせたいわけではない。



では、そこで発信したいメッセージは何か。「手を替え品を替え、僕が言いたいのは同じで、『ゆるく生きた方が楽しいよ』ということ。真面目にキリキリやるのもいいけれど、知的でのびのび、みずみずしい世の中にしたい」

哲学を味方にしたお堅くも見える投稿からすると、“ゆるく”とは意外にも思えるが、確かに山口の言葉は、今という時間や空間にとらわれて閉塞したところに、違う視点や抜け道を示している。

世の中に課題を見つけ、それを整理し、違う視点をひたすらに発信し続ける。「航海と同じ。すぐには変わらないけれど」と山口は言うが、その小さな積み重ねは、後から見たら、大きな軌道修正に見えるのだろう。

文=鈴木奈央

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