ビジネス

2019.10.22

「エシカル」を発信し続け、10年。いま、白木夏子が考える「誰もが幸せを追求できる」世の中とは?

HASUNA代表取締役の白木夏子

「エシカル」──「倫理的」という言葉は、この10年でさまざまな人が選びとるアティテュードとなった。資本主義に生きる私たちの多くが、見て見ぬ振りをしてきた、ある種の「搾取」構造や不合理性に真っ向から挑み、日本に「エシカル・ジュエリー」を広めた立役者が、HASUNA代表取締役の白木夏子だ。

HASUNA設立から10年を経て、いま彼女は、多様なパートナーシップのあり方を世の中に提示するブランド「REING(リング)」や、”心まで豊かにする買い物”をコンセプトにしたセレクトショップ「PIMLICO No.72(ピムリコ)」など、新たなプロジェクトをスタートさせている。

全世界規模でのSDGsやESG投資への関心の高まり、あるいはスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリが投げかけた資本主義へのアンチテーゼを経て、ますます経済活動と社会課題解決とが密接なものとして語られる現代。白木は「日本のブランドとして何ができるのか、特にここ数年、考えることが多い」と語る。

そんな白木に、改めて問いかけたブランド設立から10年の道のり。そしていま考える「誰もが幸せを追求できる」世の中とは──。

つくる人も身に着ける人も幸せになれるようなジュエリーを

私が起業しようと決めたのは2008年の初め、まだ投資ファンドで働いているころでした。留学時代、国連でのインターンやNGOでの経験を通じて、貧困問題の解決に使命感を抱きながらも、まだ何のスキルもネットワークもない自分ができることは多くない……。

そう考えて、金融機関という資本主義社会の真っ只中に飛び込んだものの、募るのは「私にできる社会課題解決をしなければ」という強い思いでした。

ごく一部の資本家だけがお金儲けをして、搾取される人は搾取されるまま。NGOの活動を通じて出会った、インドの貧困層の人々が、劣悪な環境下で鉱石を採掘する現実──。末端の労働者が低賃金で働かなければ成り立たない、資本主義のあり方には、疑問しかありませんでした。ビジネスの構造そのものを変えなければ、持続的な社会を次世代につなぐことはできないんじゃないか……。

そこで考えたのは、つくる人も身に着ける人も、誰もが幸せになれるようなジュエリーブランドを立ち上げること。トレーサビリティを確保し、インドやパキスタンといった生産地の方々から直接鉱石を買い取り、自分の信じられるものづくりを追求したいと考えたのです。



ただ、そのジュエリーをどう表現すればいいのか。「フェアトレード」という言葉だけでは説明できない部分がありました。リサイクルの地金を活用し、日本国内の職人さんに最終加工をお願いして、環境負荷を考慮し、持続可能な生産環境を整えること。それを一言で言い表せるような言葉はないだろうか……。

そう考えていた私の目に留まったのが「エシカル(ethical)」という言葉でした。当時、欧米を中心に「エシカル・ファッション」が注目されつつあり、ちょうどそのころ読んだ雑誌『マリ・クレール』でも特集されていました。

まだ、「エシカル」と日本語で検索をかけても、一件もヒットしないような言葉でしたが、きっとこれからこのキーワードは広がっていくはず。そこで当時、ブランドを「Ethical Jewelly HASUNA」と名づけたんです。
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文=大矢幸世 写真=小田駿一

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