ビジネス

2019.10.22

「エシカル」を発信し続け、10年。いま、白木夏子が考える「誰もが幸せを追求できる」世の中とは?

HASUNA代表取締役の白木夏子


くしくも、HASUNAを立ち上げる準備を進める前に、起こったのがリーマンショックでした。それまで私がいた金融業界では特に、誰もが資本主義を信じて疑わなかった。けれどもリーマンショックを境に、すべてが崩壊しました。

外資系金融機関に勤める友人は突然解雇され、私が勤めていた会社も一部上場企業でしたが、結局経営破綻してしまった。信じていた「お金」の力が、一気に無と化したのです。そして、人々が求めはじめたのは、金銭的価値だけではない、体験やストーリーとして価値あるものだったのです。

広がってきた「エシカル」という価値観への共感

とはいえ、はじめのうちはなかなかそのストーリーを伝えることはできませんでした。展示会で「エシカル・ジュエリー」と言っても、まったく伝わらない。セレクトショップや百貨店のバイヤーに「エシカルって何ですか?」と聞かれ、その説明だけで時間が終わってしまう……。そんなときもありました。

ただ、私たちにはリアルなプロダクトがありました。「この牛の角は、ルワンダのストリートチルドレンだった青年たちが、職業訓練を経て作ったものなんです」「この貝殻は中米ベリーズの職人さんが作ったもので、フェアトレードで仕入れたんです」と、実際に手に取っていただきながら語りかけることで、地道ながらも少しずつ、私たちのブランドに興味を持ってくださる方は増えていきました。

そして、2011年の東日本大震災。多くの方にとって、根底から価値観が揺るがされるような悲しい出来事を経て、より「エシカル」という価値観に共感が集まるようになりました。東北で作られたお酒や食べ物、洋服やアクセサリーなどを買って、復興を支援しようと、各地でポップアップショップが開かれ、ECサイトが立ち上がりました。『日経MJ』や『繊研新聞』といった流通紙で「エシカル消費」と特集が組まれるようになったのも、その時期だったと思います。

ときを同じくして、H.P. FRANCEが主催する合同展示会「rooms」で、「エシカルゾーン」を作ろうという試みがありました。私たちも出展したのですが、他にもパタゴニアやピープルツリーなど、エシカルな取り組みをしているさまざまなブランドが集まりました。

また、エシカルの啓蒙活動を行う一般社団法人が立ち上がったり、アクティビストが増えてきたりして、少しずつ仲間が増えていくような感覚がありました。

大手企業にも変化が現れてきました。それまで、ある種「PRの一環」としてCSRに取り組んできた企業が、より事業と連動した本質的な社会貢献として、SDGsに取り組む方法を模索するようになってきたのです。

私たちにも、大手のジュエリーメーカーから「エシカル・ジュエリーを作るにはどうしたらいいか」と相談があったり、HASUNAそのものをSDGsのモデル企業として参考にしていただいたりして、本業を通じて、社会問題の解決に取り組む企業が、世の中に少しずつ広がってきました。


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文=大矢幸世 写真=小田駿一

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