ニューヨーク・タイムズによれば、トランプとコーンは、トランプが若き不動産開発業者としてアフリカ系アメリカ人にアパートを貸すことを拒んだことで法務省から訴えられた時に、トランプとその父を弁護して訴訟に立ち向かったところからメンターシップが始まったという。
コーンは、どんなことでも和解が嫌いなハードネゴシエイターで、「やられたらもっとやり返せ」というスタイルを貫いていた。
トランプもコーンとのことをふり返って、「あの訴訟では、訴訟相手に向かって地獄へ行けと言え、裁判所で戦って来いとコーンに言われた」とトランプは発言している。そしてニューヨーカー誌のジャーナリスト、ケン・オーレッタによると、トランプは自身の口から、コーンのことを自分のメンターだったと認めている。
その訴訟以来、コーンはトランプのメンターとして関係を続け、彼の開発事業の契約書を作成したり、全米フットボール協会を訴えたとき、あるいはトランプが最初の夫人と婚前契約を結んだとき、常にコーンはトランプを指導、教育していたという。
自らの同性愛を隠しながら…
ブロードウェイの舞台で、コーンの生涯を描いた芝居「エンジェルズ・イン・アメリカ」で彼を研究し、熱演した俳優ネイサン・レインは、「コーンの交渉スタイルは、いつでも攻撃、反撃、批判をするものには10倍にして返せ、相手の注意を逸らせ、負けても認めるな、失敗したら嘘で突破せよ、だった」と自らの分析を語っている(ネイサンはこの舞台でトニー賞を受賞している)。
ロールスロイスを乗り回す金持ちで、悪徳弁護士だとの中傷にもひるまず、コーンはセレブを弁護し、巨大な敵と向かい合い、FBIのターゲットになりながらも、また同時に時の権力とも通じ、相手への攻撃の手を緩めない。証拠隠滅罪や脅迫罪で、生涯、3回も逮捕、起訴されるが、いずれも検察の立証を駆逐して無罪を獲得した。
自分はユダヤ人であるにもかかわらず、マッカーシーのユダヤ差別に乗っかってユダヤ人を排斥したり、また自らは同性愛者であったにもかかわらず、表向きはそれを隠し、クライアントの法廷で同性愛者が証言台に立とうとすると、「同性愛をばらされたくなかったら証言するな」と脅迫行為に及んだりしたとも伝えられている。
ニューヨーク・タイムズによれば、今回公開されたFBIの捜査資料は748ページにも上り、今後、コーンがどのような交渉・攻撃スタイルで違法ギリギリのところをすり抜け、相手との勝負に勝っていったのかの詳細が明らかになるのではと期待されている。
折しもトランプ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領に対して「バイデン氏の息子の不正を調べろ」と命じていた疑惑がホワイトハウスの内部告発から発覚。民主党議員によって(クリントン大統領以来の)大統領弾劾裁判にかけられる見込みが濃厚だ。目下、トランプは民主党に対して反撃中だ。
トランプは、その死去まで13年間も崇めたメンターの強烈な視線を、いまだに背後に感じているに違いない。
連載 : ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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