最高レベルの子育て政策も無駄? 急減するフィンランドの出生率

出生率の低下について話す、ヘルシンキ大学の教授たち

厚生労働省が発表した人口動態統計によれば、2019年1月から7月の日本の出生数は前年同期比5.9%減の51万8590人で、今年の出生数は90万人割れする可能性が高く、予想していたよりも、少子化のスピードが加速している。

同じように出生率の急激な低下に頭を悩ませている国がある。北欧のフィンランドだ。国連の幸福度ランキングで2年連続トップを維持している国だが、これまでも高福祉の国として子育て政策には力を入れてきた。しかし、2002年から2010年まで順調に伸ばしていた出生数も、その後、急減している。

フィンランドの大手メディア、ヘルシンギン・サノマットは「少子化が進みすぎて、近々人間の出生数よりも子犬の出生数が上回るだろう」と予測している。

ある研究者によれば、フィンランドは「ヨーロッパの新しい日本」になりつつあるという。食い止められない少子化の波はなぜ起きているのか。フィンランドで3人の専門家に話を聞いた。

「個人」を重んじるフィンランド


アンティ・カウッピネン教授

アンティ・カウッピネン教授は、ヘルシンキ大学で政治哲学を専門としている。福祉の充実したフィンランドでなぜ少子化が起きているのか、話を聞いた。

「フィンランドでは、個人主義を重んじる傾向があり、多くの人が出産するかしないかを選択できるようになったことで、子供を持つことよりも個人としての幸せを追求する人が増えたのではないかと考えられます。女性も『母親』以外の選択肢をとる人が増えています。自分の人生を子供に左右されたくないと考える人が増えているのでしょう」

フィンランドでは、妊娠すると、子育てにまつわるありとあらゆる相談を受けられる「ネウボラ」施設が用意されていたり、赤ちゃんに必要な1年間の育児用品が揃った「育児パッケージ」が各家庭に送られてきたり(不要な人は現金支給)、保育園にも待機することなく無償で通えたりできる。子供が欲しいと考える人の経済的負担を減らすための施策が充実している。

しかし、子供を育てることでの生活の変化は、経済的負担の軽減だけでは補えきれないものがある。子供を持つことを喜びと捉えるか、今は必要ないと判断するかは、文字通り個人の自由な選択となっている。

男女格差が縮まらない現実


マルユット・ユルキネン教授

フィンランドは男女平等格差指数ランキングでも常に上位をキープしている。今年6月に発足した内閣は19人中11人が女性で、初めて男性閣僚の数を上回った。しかし、同じくヘルシンキ大学のマルユット・ユルキネン教授によれば、「男女格差の課題はまだまだ存在する」という。そして、「その格差が出生率の低下に影響を与えているのではないか」と指摘する。

例えば、同じ働きをしていても、フィンランドの女性は男性の84%しか稼ぐことができない。また、高齢者の介護や子育ても母親に任されることが多い。家事に割かれる時間は女性が3.5時間に対して、男性は2.5時間だ。

そんな現状のなか、独身でいるほうがワークライフバランスをとりやすい。自分1人だけの生活をコントロールするほうが、まだ幸福度が高いのではないかと考えられているのだ。日本よりも圧倒的に男女格差の少ない国ではあるが、まだまだ乗り越えるべき壁は高いことがわかる。
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文・写真=井土亜梨沙

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