企業経営者は、常に素早く意思決定をして、その責任を追わなければならない。そのため彼らは想像を絶するプレッシャーを常に抱え、孤独に苛まれている。しかし、優秀な経営者には、そうした重圧や孤独に押しつぶされそうになった時に支えとなり、叱咤激励してくれるパートナーがいるものだ。
若きイノベーターであるタイミー代表取締役社長の小川嶺、キャディ代表取締役の加藤勇志郎、L&Gグローバルビジネス取締役でホテルプロデューサーの龍崎翔子は、一体誰をパートナーとし、重圧や孤独に耐えているのだろうか。
東京・六本木の「Mercedes Me Tokyo」で9月12日に行われたイベント「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 Meet-up 2019」。そのなかのセッション「真のパートナーを味方につける力」では、同賞のアドバイザリーボードであり、シニフィアン共同代表の朝倉祐介を司会に迎え、この3人の若き起業家たちが“真のパートナー”を見つけ出し、巻き込んできたストーリーを語り合った。
この「30 UNDER 30 JAPAN 2019」は、Forbes JAPANが世界を変える日本の30歳未満の30人を、「アート」「エンターテインメント&スポーツ」「ビジネスアントレプレナー」など10のジャンルから選出するイベント。また、同セッションは、若手ビジネスパーソン向けWEBマガジン「
EL BORDE」が協賛した。
パートナーの条件は、強み・弱みを補完しあえること「僕にとってのパートナーは、従業員のみんなです」
口火を切ったのは、30 UNDER 30 JAPAN 2019の「EL BORDE特別賞」を受賞した最年少の小川だった。自社を「超フラットな企業」と表現する彼ならではの発言だ。
「スタートアップは、成功するかどうかわからない。そんなリスキーな環境でも全力で働いてくれている。そうなると従業員全員が対等であり、パートナーです。もはや仕事上だけではなく、人生のパートナーとも言えます」
小川と同年代の若い従業員たちが、職位や年齢を超え、苦楽を共にしながら目標に向け邁進している姿が目に浮かぶ。現在22歳の小川は18歳のとき、主婦が隙間時間に学生のために食事をつくるマッチングサービスで起業し、次に自分の好みや体型に合わせ、ファッションブランドから似合う服の提案を受けられるファッションアプリを手掛けた。現在は「特定の時間だけ働きたい」働き手と「特定の時間だけ働いてほしい」雇用主を結ぶマッチングアプリ「タイミー」を運営している。
タイミー代表取締役社長 小川嶺続いて、小川より1歳上で、コンシューマービジネス部門を受賞したホテルプロデューサーの龍崎も「パートナーは1人ではない」と語った。
「プロジェクトを進めていく上でお互いを補完しあえる方たち、関わっていただいているみなさんがパートナーですね」
龍崎は、各地の魅力をホテルに実装し、滞在そのものが目的となるような、ファッションや文化と融合したホテルを運営している。創業の地に選んだのは北海道、富良野だった。最初のパートナーとなった母と富良野へ飛び、龍崎がフロント対応や接客をし、母が調理や掃除を担当。お互いの強みを活かして「petit-hotel #MELON富良野」をオープンした。現在では5軒のホテルを運営し、新形態のホテルとして業界に旋風を起こしている。
小川、龍崎が真のパートナーは1人ではなく社員全員だと語ったのに対し、エンタープライズビジネス部門を受賞した加藤は「社員全員も重要なパートナーだが」と前置きした上で、特に創業時から運命を共にしている同社CTO、小橋昭文の名を挙げた。
新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社した加藤は、そこで製造業の非効率な受発注の領域に課題を感じた。マッキンゼーを退社後、キャディを創業するにあたり、アップルに勤務し、テクノロジー分野に強みを持つ小橋をCTOとして迎えた。ビジネス領域に強みを持つ加藤と、テクノロジー領域に強みを持つ小橋は、互いの強みを活かし、補完できる関係性だった。現在、同社は金属部品などの調達において、いまだ自動化や効率化が進んでいない領域にテクノロジーを活用した受発注プラットフォーム「CADDi」を投入し、製造業のイノベーションを促進している。
パートナーの巻き込み方は三者三様必ずしも、誰もが信頼のおける社員やパートナーに出会い、信頼関係を築けるわけではない。彼らは、見つけ出したパートナーをどうやって巻き込んでいるのだろうか。
小川は「いかに周囲の人に応援してもらえるかが重要だと思います。やりたい思いがあるのに実現できないとき、助けてほしいと素直に言えるかどうか」だと語った。「超フラットな企業」で、かつ小川の素直な性格があるからこそ、経営者自ら社員に助けを求められるのだろう。
龍崎は「バイブスが合うかどうかですかね(笑)。一緒に働く人は何が得意で、何がしたいのかなどを見極め、それを実現できるような環境を整えていくことに力を入れている」という。龍崎はバイブス、つまり波長が合うかどうかを重視している。波長が合うと親近感を覚え、信頼につながる。また、環境を整えることで、高いモチベーションで働くことができるとも語った。
創業時からパートナーを小橋と定めていた加藤は、小橋を巻き込み、共に働くまでに至った5年間を、ユーモアたっぷりにこう振り返った。
「創業前から彼とは毎年2回ほど会い、徐々に距離をつめ、いつの間にか一緒に仕事をしている状態に持ち込みました。例えるならば、いつの間にか生活を共にしている事実婚に近いですね(笑)」
キャディ代表取締役 加藤勇志郎社会課題の解決に挑む3人が目指す道最後に、パートナーやまわりの人々を巻き込んできたこの3人に、どのように事業を発展させていこうと考えているのか、今後の展望を語ってもらった。
加藤は「国内の製造業の市場規模は180兆円、その中でも調達領域は120兆円と非常に大きな市場です。しかし、町工場は30年で半数以上が倒産している。これは国内だけなく、グローバルレベルでも同じように構造的な問題です。調達領域での自動化や効率化をさらに進め、この社会課題を解決する会社をつくっていきたい」と意気込んだ。
すでに5軒のホテルを運営する龍崎は「私がホテル事業を始めたきっかけは、幼い頃、家族旅行の計画を立てるとき、ホテルはたくさんあっても家族で泊まりたいと思えるホテルがなかったこと。数はあるけれど、実質的な選択肢が少ない業界に対し、新しい選択肢をつくるような事業を展開したい」と、新たなフィールドへの進出を示唆した。
L&Gグローバルビジネス取締役 龍崎翔子曽祖父も起業家だったという小川は、「これまで様々なサービス業で働いてきました。その経験の中で、どこも人手不足であることを実感しました。もし街を歩いている人が気軽に、人手不足で困っている企業を助けられる環境が生まれれば、日本はもっと豊かになると思いタイミーを始めました。僕は日本が好きなので、まずは日本でしっかり成功を収めた後は、今後、少子高齢化で困るウクライナや韓国などの国々へノウハウを伝授し、世界の課題を解決していく企業をつくりたい」と、世界進出を視野に入れていることを明かした。
味方にしたい相手の思いに寄りそうこと「身近な人のほうがパートナーとして合うのではないかと思うことが多いんです。能力の高さよりも、その人と噛み合うことのほうが重要です。また身近な信頼関係がある人のほうが、ビジネスにおいてもパートナーとして適任だと思うことが多々ありますね」
龍崎がそう語ったように、真のパートナーは、意外とすぐ近くにいるものだ。また、自らが不得手なものを得意とする存在が真のパートナーとなるのだろう。
あえて自分の弱みをさらけだす小川、相手の能力や適性を見極めて環境を整える龍崎、会う回数を重ね、徐々に関係性を構築する加藤。パートナーを引き寄せる方法にセオリーはなく、それぞれのスタイルがある。つまり、「巻き込む力」にその人の個性が現れてくるのだ。
一方で3人の若きイノベーターたちに共通するのは、身近なところからパートナーとして巻き込んでいったこと。3人の言葉から伝わってきたのは、自分に近い存在に目を配り、彼らの思いに寄り添いながら思いを一つにしていくことの大切さだ。真のパートナーは延々と探し求めるものではなく、すでに身近なところにいるのかもしれない。
小川嶺(おがわ・りょう)◎タイミー代表取締役。1997年、東京都生まれ。立教大学在学中。18歳で最初の事業を開始。大学2年時にRecolleを登記、3年時にタイミーに登記を変更。
加藤勇志郎(かとう・ゆうしろう)◎キャディ代表取締役。東京大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社。史上最年少のシニアマネージャーとなる。同社退社後、2017年、キャディを創業。
龍崎翔子(りゅうざき・しょうこ)◎L&Gグローバルビジネス代表。ホテルプロデューサー。1996年、東京都生まれ。2015年、母とL&Gグローバルビジネスを創業。
今回登壇した小川氏を含む3人が「30 UNDER 30 JAPAN 2019 EL BORDE特別賞」に輝いた。EL BORDEでは3人の詳しいインタビューを掲載している。
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