社会保障のデジタル化は「ゾンビ化を招く」、米教授の主張

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近年は各国の政府が社会保障システムの運営を、巨大テック企業らに任せつつあるが、最も貧しい人々の人権が脅かされる懸念も生じている。

国連の特別報告者(人権問題担当)を務める米ニューヨーク大学のフィリップ・アルストン(Philip Alston)教授は、「デジタル社会保障制度」と彼が名づけたシステムに対する懸念を表明した。

「各国の政府は社会保障制度の運用に、デジタルデータやテクノロジーを活用し、自動化や予測、問題の特定や目標設定を行っている。しかし、デジタル化を進める中で、中立的な視点が置き去りにされてはならない」とアルストンは警告した。

社会保障制度のデジタル化は、全体的な予算やサービスの削減につながる傾向があると彼は指摘している。アルストンによると、デジタル化を担うテック企業らは、「人権無視の責任を問われない、フリーゾーン」を提供されているという。

テック企業らは独自の倫理基準を定めてはいるが、それらの多くは論理の一貫性を欠き、説明責任を果たしていないというのがアルストンの主張だ。

一方で、テック企業らはこれまで以上に、デジタル社会保障制度の主要な部分の運用を担いつつある。南アフリカではNet1社の子会社であり、南アフリカを代表する決済サービスプロバイダーのCash Paymaster Services(CPS)やマスターカード、Grindrod Bankらが、政府の助成金の分配を担っている。

「ごく少数の民間企業が政府の役割を引き継いでおり、社会の向かう方向の決定権を握っている。デジタル社会保障制度が急速に普及する中で、このシステムがゾンビ化することを防がねばならない」とアルストンは指摘した。

アルストンの意見は議論を呼ぶことで知られ、彼がドナルド・トランプの富裕層優遇措置や英国の緊縮政策に対して示した見解は、政府関係者から強い反発を受けた。今回のアルストンの報告も同様な議論を呼ぶ内容ではあるが、実質的な効力は持たないと見られている。

編集=上田裕資

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