「よい人材は、生えてくるもの」。才能を刺激する意外な奥義

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18年冬にバンクーバーで行われたフィギュアスケートのグランプリファイナルで優勝した紀平梨花や、19年のウィンブルドン選手権・ジュニアで、日本人男子初の優勝を勝ち取った望月慎太郎もN高に在籍。国際情報オリンピックのメダリストも輩出し、史上最年少で女流棋聖を獲得した囲碁棋士も在籍する。

しかし、実際には「やりたいことが見つかっていない」という生徒も多い。そういった生徒にはどのようにはたらきかけるのか。校長の奥平博一は「誰にでも必ず興味を持てることがある」と話す。「私たちがやっているのは、何かを教えて成長させてあげることではありません。できることは、環境を整えてあげることだけ。視野を広げて、見晴らしをよくしてあげるんです。そうすると自然と、自分の好きなことや興味が見えてくるんですよ」

その好例は、2018年にeスポーツのアジア大会で優勝した相原翼だろう。N高は全国に生徒がいるため、Slack上で部活動を行っている。その部活も、自身の興味に気づくきっかけとなる。相原がeスポーツ選手として歩み始めたのもここからだ。

N高に入らなければ、もしかすると、ただ自宅に引きこもってゲームをするだけの少年だったかもしれない。しかしサッカー部で仲間と切磋琢磨し、顧問の元Jリーガーなどからアドバイスをもらう経験を重ねていくうちに才能が開花。遊びだったゲームで、プロとして世界レベルにまで成長したのだ。

また、部活のひとつである起業部では、堀江貴文ら実業家たちに事業プランをプレゼンする機会が与えられ、投資部では村上世彰から資産運用のフィードバックを受けられる。

どちらも高校生だからといって手加減せず、真正面からぶつかる。それでも「生徒たちは全然臆さないですよ」と奥平は笑う。「ハードルを上げると勝手に乗り越えようとするんですよね。本来持っている能力はみんな高い。そういう機会を設けないと、なかなか見えてこないんです」。

N高には何かしらの理由で全日制学校をドロップアウトして入学した生徒も多い。そのため、ほかの生徒がやっていることや、個性を否定することはない。

お互いが個性を尊重し、認め合うからこそのびのびと自分の好きなことに没頭することができるのだ。

「生徒たちに環境を整えてあげて、世の中で通用する武器を与えること。何が武器になるかは人それぞれで違う。N高の3年間で自分はどんな人間なのか、何がしたいかをじっくり探してほしいですね」

取材をした3名は、みな口を揃えて「才能は育てられない」と話した。それはつまり、「教育」そのものの概念が変わったということではないだろうか。知識を伝達し、人を育てるための学校や教師の役割はすでに限界を迎えている。人々の自己肯定感を育み、自発的な行動を促す場からこそ未来は生まれていく。

文=崎谷実穂|イラスト=Megapont

この記事は 「Forbes JAPAN 空気は読まずに変えるもの日本発「世界を変える30歳未満」30人」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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