「よい人材は、生えてくるもの」。才能を刺激する意外な奥義

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馬場は「同じ世代の優秀なクリエイター、しかもジャンルが全然違う人たちと会えるなんて贅沢ですよね。僕が若い頃にはない環境だったのでうらやましい」と語る。

「作曲家がプログラマーに出会ったり、建築家が漫画家に出会ったりする機会はそうない。大人同士だと友達にはなりづらいけど、学生ならなりやすいでしょう。長い目でみるととても大きな財産だと思いますね」

実際に、同期クリエイター同士のコラボレーションも頻繁に生まれているという。クマ財団では、期の終わりに創作物を発表・展示する『KUMA EXHIBITION』を開催。成果発表の場として、各自でつくったものや同期同士でコラボした作品を一般に向けて公開する。

「将来的にはたとえば劇作家が舞台を制作するときに、クマ財団時代の仲間に音楽や美術などを依頼するとかもありえますよね」と馬場。異なる分野のクリエイターとの接触、融合ができることこそがクマ財団が持つ大きな魅力である。

奨学金や交流のほかに、奨学生に対してどんな支援をしているのか、尋ねると「育成なんてできませんよ」と返ってきた。「我々にできるのはお金と機会を提供することだけ。奨学金は制作費用になるだけでなく、制作時間の捻出にもなっているようです。あとは展示会などで機会を活かして、大御所にお墨付きをもらえるかどうかはその人次第ですから」。

クマ財団のスタンスは、あくまで「応援」である。当然リターンは求めていないし、最後の展示会で成果発表をすることは、義務ではない。勝手に創作意欲が湧き出てくるのがクリエイターであり、何か指導してつくらせるのはクリエイターに対する支援ではないと馬場は考えている。

「奨学生だった人が将来出世して、『クマ財団にお世話になったな』と思い出してくれるのがいちばんの報酬ですね。その人が世に出るということは、社会に価値を還元できたということ。それだけで十分です」

ありのままを受け入れる

未踏事業、クマ財団がすでにやりたいことがある人たちがよりよい環境を求めて入るところだとすれば、N高等学校、通称・N高は「何がしたいかわからない」人に対しても学びと発見の機会を提供する。

N高は、学校法人角川ドワンゴ学園が16年に開校した通信制高校だ。開校からまだ3年と短いが、N高独自の教育理念によって「才能あふれる子が、自由な学びを求めて積極的に選ぶ高校」として成果を残し、現在は有名進学校からN高へ転入してくる生徒も増えているという。
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文=崎谷実穂|イラスト=Megapont

この記事は 「Forbes JAPAN 空気は読まずに変えるもの日本発「世界を変える30歳未満」30人」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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