ビジネス

2019.10.22

熱海から世界へ 「食べられる」という名のファッションブランド

熱海にあるEatable of Many Ordersの直営店兼アトリエ「EOMO store」

熱海市は観光で成り立つ街だ。近年の調査でも第3次産業の就業者が8割を超えており、その中でも飲食・宿泊業の割合が突出して高い。実際、街の中心部にも数多くの飲食店が軒を並べている。そんな熱海にひと際異彩を放つ店がある。目抜き通りの熱海銀座商店街から少し脇に入ったところにある「EOMO store」だ。

年季の入った土産物店のビルにあり、目立った看板も出していないため、すぐには気づかないかもしれない。筆者自身、熱海によくある婦人服のブティックのひとつかと思い、最初は気にも留めていなかった。

しかし、ある時、ふとショーウィンドウを覗くと実に洗練されたドレスが飾られている。気になって引き戸を開けてみるとそこには不思議な空間が広がっていた。入り口からすぐにカーブを描く階段が下へと続いており、半地下になっている。そして、椅子を組み合わせて作られた大きなアーチ状のオブジェ。その奥にはアトリエが見える。

セレクトショップかと思ったがそうではないらしい。お店の人に聞いてみると「Eatable of Many Orders(エタブルオブメニーオーダーズ)」というブランドの直営店兼アトリエとのこと。メンズの服もあったので手にとってみたが、糸や織りにこだわっていることが伝わってくるナチュラルな生地、他では見たことのないオリジナリティあふれるディテールと上質なものであることはすぐに理解できた。


EOMO storeの店内

どんな人が、どうして熱海で、このようなブランドをやっているのだろう?

いつか会って話を聞いてみたいと思っていたが、狭い街ゆえ、それはすぐに叶った。

自然環境に恵まれた熱海だからできることがある

「Eatable of Many Orders」の代表兼デザイナーは、新居幸治さんと洋子さんご夫婦。2007年からものづくりの拠点を熱海に構え、2016年に直営店の「EOMO store」をオープンしたという。熱海在住歴は12年になる。


デザイナーの新居幸治さん・洋子さんご夫妻

幸治さんは多摩美術大学の建築学科を卒業後、アントワープ王立芸術アカデミーでファッションを学んだ。洋子さんは17歳で単身渡米し、アメリカの美術大学で学んだ後、ドイツ人デザイナーのベルンハルト・ウィルヘルムのもとで仕事をしていた。二人とも異色の経歴だ。そんな二人はベルギーで出会い、結婚し、2007年から日本に戻ってものづくりを始めることになる。
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文=高須賀 哲

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