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Forbes JAPAN 編集部 編集長


信玄堤は、増水した河川のエネルギーを内側に押し込めるのではなく、あらかじめ堤防を分断させてエネルギーを分散させる方法である。400年前、武田信玄は、堤防に切り込みをつくらせて、増水した川の水を湿地や田んぼ、遊水池に流れだす仕組みにした。切り込みが斜めになっているので、雨がやめば、川の外に分散した水は再び元の川に戻っていく。

しかし、明治政府は近代治水を取り入れ、淀川の遊水池は干拓で埋め立てられていく。

危険な水を堤防の中に押し込むという発想か、あるいは地域全体で受け止めて分散させ、リスクを小さくする流域治水か。明治以来、政府内でこの2つの考えが対立し、連続堤防が主流派だったという。流域治水には難点があるからだ。

リスクを地域全体に分散させるには、周辺住宅の立ち退きや、農地などの土地利用について行政全体で取り組まなければならない。一つの役所の対策でどうにかなる話ではない。特に都市部になると立ち退きに反対する人も多く、堤防を高くすることで安全が確保できると考えがちだ。

だが、近年のゲリラ豪雨の増加など、人間の技術で計算した以上のことが起きている。東日本大震災の津波を思い出せばわかるはずだ。防災とは、人間の想定が間違いであることを前提にすべきであり、自然の脅威をコントロールすることはできない。

では、台風19号やゲリラ豪雨のような脅威から「信玄堤」で住民を守ることができるのか? そんな疑問もあるだろう。こう考えてはどうだろう。武田信玄が考えた堤防の「形」を受け継ぐのではなく、「思想」を借りることはできないか。今回、信玄の思想が生きたのが、東京都建設局が約1000億円を投じた巨大プロジェクト「神田川・環状七号線地下調節池」である。

1988年から2007年にかけてつくられ、東京都の地下に存在する巨大な調節池は、信玄堤の遊水池を地下に置き換えたものだ。近年は「仮面ライダー」の撮影に使われ、「地下神殿」とも呼ばれる。

「閉じ込める」「分断する」のではなく、「取り込んでリスクを最小化する」。武田信玄が考案したこの発想法は、防災に限らず、社会問題、ビジネスなど、幅広く、私たちにサバイバルするヒントを与えてくれるのではないだろうか。

文=藤吉雅春

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