広告は終わったのか? 広告がいま問いかけるものとは



(写真)原野守弘

次に原野が紹介したのは、スウェーデンの生理用品を展開する「リブレッセ」の広告キャンペーン「VIVA LA VULVA(外陰部バンザイ!)」だ。チタニウムライオンやグラス部門、フィルム部門のゴールドを受賞した同作は、女性器を連想させる貝殻やフルーツが、冒頭から最後まで何度も登場する動画だ。「あなた(自分の性器)が私のもので本当によかった」と繰り返されるメッセージが、多くの女性の共感を得た。



原野は「広告はよく時代を写す鏡と言われる。本当にすごい広告は時代や文化を映すだけでなく、文化や時代を変えてしまう」と広告のあり方を説いた上で、「バーガーキングのキャンペーンも同様に、面白いや泣けるなど感情を動かすことが必要だ」と解説した。

原野はGODIVAの「日本は、義理チョコをやめよう」などを手掛けた経験から、「ソーシャルメディアの登場で、良いものも悪いものも拡散され、時には炎上してしまう時代になった。日本企業は、まだまだ炎上を恐れる傾向があるが、欧米では特に皆が『憎い』と感じるものに対して企業が立場を明確にするようになっている。またそこには『寛容さ』もキーワードになってくる」と語った。

売上はビジネスインパクトの一つ

続いて登壇した林が紹介したのは、モバイル部門でゴールドを受賞した中国のケンタッキーフライドチキンの広告キャンペーン。ウーバーイーツなど宅配の普及で、いかにお客さんに店舗に足を運んでもらうかが課題のなか、同社が目をつけたのはソーシャルゲームだった。中国のメッセンジャーアプリ、ウィーチャット上に、ユーザーが自分好みに外装などを選んだ仮想店舗を設置し、ユーザーの友人がその仮想店舗経由で購入すると、友人には割引が、ユーザーにはマージンが入るという仕組み。

「250万以上のユーザーが毎日アクセスし、仮想店舗経由で売上も伸びた。ソーシャルゲーミングコマースと言われる手法で、売買の発明が起きた」と林は解説した。


(写真)林智彦

次に林が選んだのは、デジタルクラフト部門グランプリのカーリングスの広告。「我々はパラドックスのなかで生きている」というナレーションで始まるこの広告は、インスタグラムなどのSNSに一度投稿した自身の写真で着用していた服を二度と投稿できないというデジタル世代特有のユーザー心理が働く一方、服を簡単に捨ててしまえば環境破壊につながるパラドックスを問題提起している。

そこで同社は、このパラドックス解消のため「adDress_THE_FUTURE(アドレス ザ フューチャー)」という広告キャンペーンを行った。デジタル上にのみ存在するアイテムを販売し、スマートフォンで撮影したユーザーのポーズに、3Dデザイナーが調整し実際に着用しているように見せかけるのだ。

モバイル部門審査員を務めた林は「2つの作品とも最初から評価が高かった。境界線を超えているか、嫉妬をするようなものかが審査基準になっている」と語り、「ビジネスなので売上を伸ばすことも重要だが、ビジネスを動かすことの定義は売上だけではない。売上はビジネスインパクトのひとつだ」と説明した。
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文=本多カツヒロ 写真=曽川拓哉

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