放送作家・脚本家、「くまモン」の生みの親。


そんな室瀬さん、12年に行った講演会の終了後にある男性に声をかけられたという。三浦雄一郎さんの息子・雄大さんだ。聞けば雄一郎さんが翌年80歳で3度目のエベレストに再登頂するとのこと。山頂付近は日没後−40℃前後になるため、アルマイトの茶碗だとすぐに冷めてしまう。室瀬さんは雄大さんの「登山中、できるだけ温かい食事をしてほしい」という願いを叶えるため、登山隊全員の分のお椀をつくった。その名も、「ちょもらんま椀(命名:三浦雄一郎)」! 帰国後の雄一郎さんに感想を尋ねたところ、温かいご飯と味噌汁にありつけたこと、使用後は雪で洗えばOKという簡便さもさることながら、「食器が漆器になっただけで、山の食事が非常に豊かになった」との言葉をいただいたそうだ。

実は雑誌『Pen』の連載「人間国宝の肖像」第1回は、室瀬さんにご登場願ったのだが、その際にこの貴重なちょもらんま椀をいただいてしまった。炊きたてのご飯をよそって食べたのだけど、お米がしっとり艷やかで、「白米だけでいい! おかずはいらない!」という感じ。使用中は凛とした気持ちになるし、使用後は丁寧に扱おうという意識が自然と湧いてくる。よい品を日常的に使うというのは、生き方が変わってしまうくらいの作用があるんだなと、あらためて感じた。

器の背後にある物語を知る

来年開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として、日本の全国各地を舞台に、文化庁主催の「日本博」が開催される。僭越ながら、僕は企画委員のひとりに任命された。

いま僕が発案して進めているのが、「工芸ガストロノミー」というものだ。器を、背後にある物語をきちんと理解した上で使ったら、料理もおいしくいただけるのではないだろうか。そう考え、人間国宝の手による器を購入した方に、スペシャルなディナー(トークイベント付き)に参加できる権利(別料金)を差し上げるというアイデアを思いついた。現在のところは、東京30名、京都30名限定。東京は室瀬和美さんで、ちょもらんま椀。京都は、鳥取在住の白磁作家・前田昭博さんに酒器をお願いしようかなと考えている。

前述の連載「人間国宝の肖像」はすでに終了してしまったが、僕はそこで40人の方のお話を直接聞き、撮影もさせてもらった。出会う前までは「人間国宝=ガチガチの職人肌で頭が固い」という勝手なイメージがあったけれど、実際には非常に柔軟な方ばかりだった。中でも室瀬さんは現代的視点にあふれ、前例のない新しいことに挑戦する心を忘れていない。文化庁がとりまとめているのはそれこそ人間国宝を主とした「伝統工芸」であり、経産省が応援しているのは若手の工芸家と企業のコラボも含めた「伝統的工芸」で、相容れない部分が微妙にあるのだが、室瀬さんはその壁すらとっぱらって活動されている。僕はその姿勢に非常に共感する。

ところで僕が日本博で最初に提案したのは、国宝級の美術品を美術館や博物館に飾るのではなく、日本各地の山頂に置いて、みながそこまで見に行くというもの。宝探し的なワクワク感もあるし、たどり着いたときの感動はさぞや!と思うのだが、「管理は?」「費用は?」とけんもほろろに却下された(笑)。でも、見に行くまでの時間と距離と苦労こそが、宝物の価値を上げると皆さんは思いませんか?

イラストレーション=サイトウユウスケ

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