フォーブスジャパン編集部



タニア・ブルゲラの作品《10150051》。真っ白な展示室にはある匂いが充満する

匂いの正体は?

キューバ生まれのタニア・ブルゲラの作品《10150051》は、これといった特徴がない、真っ白な部屋。鑑賞者の女性が「あんなところ長くいられんわ」と、展示室の外に出てきた。確かに少し、外にも異様な匂いが溢れてきている。展示室に入る時、手の甲に5桁の数字のスタンプが押された。これは2019年に国外へ脱出した難民の数と、国外脱出が果たせずに亡くなった難民の数だという。

この部屋の匂いの正体は、健康被害がないというメンソールだった。清涼感のあるメンソールだが、室内に充満していて強烈な匂いを放っていた。場合によっては涙がこぼれることもあり、「強制的な共感」を呼び起こす狙いがある。私の場合、目元は大丈夫だったが、鼻からメンソールを深く吸い込んでしまったせいか、喉元にもその匂いが残り、この日は、展示の意味を考えざるを得なかった。数日たったいまでもその匂いと、その時感じてしまったネガティブな感情をはっきり思い出すことができる。

確かに、政治的な問題や世界的な課題を表す作品は多い。だが、アートを通じてさまざまな現実と向き合うというのは、この国際芸術祭の意図するところではないだろうか。

次に、名古屋市美術館へ。ここにも、歴史や現実を知り、考えるきっかけとなる作品があった。


藤井光の《無情》から。若者が、かつての日本統治下の台湾で行われていた軍事訓練や宗教儀礼を再現する映像

まず、藤井光の《無情》では、真っ暗な展示室に大型のパネルが複数設置され、計5つの映像が流れていた。そのひとつは、1940年代前半に日本の統治下にあった台湾で制作された国策プロパガンダ映画「国民道場」だ。ほかの大型パネルには、愛知県内で働く外国人の若者たちが、フィルムの中で映し出される訓練や宗教儀礼の様子を再現した演劇が映し出されていた。


藤井光の《無情》。1940年代前半のプロパガンダ映画「国民道場」の映像から

「国民道場」の映像では、裸にハチマキとフンドシを巻いたような姿で水をはったプールのような場所に入り、身を清めたり、「押忍!」と気合いを入れたりと、皇民化教育を強いるかつての日本の姿が垣間見られる。再現された映像からは、均一化された集団の緊張感が漂っていた。

文、写真=督あかり

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