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どの取材でも言い続けた、2つのビジョンと3つの柱

──不祥事が起こったときのリスク対応も、広報には不可欠な機能ですね。

そうですね。ところがベンチャーでは、リスク対応をしていない企業も少なくないのです。サービスを提供して社会とコミュニケーションしていくにあたり、もしも何かあったときに「黙っている」時間が長くなればなるほど、信頼は失われます。事前に準備していなければ、リスクに対応ができない。そして、こういうときこそ、メディアとコミュニケーションできる人、つまり広報を置いておくことは大切です。

広報は、そうした悪いことだけでなく、いいときにもメディアとのコミュニケーションの場面で活躍します。例えばある日、NHKが取材に来ると言われても、取材意図を理解し、会社の目的と調和させていく人がいなくては、機会ロスになる可能性がある。インタビューでは、無防備に、聞かれることだけ答えてしまい、その会社が目指しているところがなにひとつ伝わらないというもったいないことが起こる可能性もあります。

その点アマゾンは、どこの部署の取材に来ても、誰がインタビューに答えても、「顧客中心です」「品揃えです」とまずは最も伝えるべきことを言う。メディアに物足りなさを感じさせる場合もあるかもしれませんが、ブランディングを未来につなげるために、これはとても重要なことだと思います。

──なぜアマゾンはキーメッセージを社内社外に浸透させることができたと思いますか?

何より、「言い続けること」ですね。どの講演会でも、どの取材でも、2つのビジョンと3つの柱を言い続けてきました。記者に「もういいよ」と言われても、言い続ける(笑)。ジェフ・ベゾスも、毎年出す株主向けニューズレターで、「顧客中心」「すべては長期的な価値のため」「Still Day One」などのキーメッセージを、1997年から2018年まで毎年言い続けてきた。いいですね? いいですね?と念押しして、「イヤな人はほかに投資してください」と暗に示すという徹底ぶりです。

社内でも同様です。広報とのコミュニケーションなどを通して、キーメッセージを浸透させてきました。その結果、各部署の事業目標作りや人事制度に、これらのキーメッセージが普通に組み込まれていきました。「この事業のゴールはこう作ります。なぜなら“品揃え”を強化するためです……」など、3つのキーワードが出てこない社内の資料はないくらいです。

私たち社員に浸透していたキーワードのひとつには、「倹約」もありました。アマゾンではドアを改良して机として利用する「ドアデスク」に象徴されるように、お金をセーブしてお客様に還元しようという考えが社内に深く染みこんでいました。

例えばゴミ箱ひとつ購入するにしても、「もっと安いのはある?」という会話が生まれるのが普通です。こうした倹約は会社のためではなく、すべて顧客のため。だから社員みんなが違和感なく、すんなり理解することができたというのもあると思いますね。

──そうしたキーメッセージや、その会社ならではのとっておきのストーリーを、上手に発信するコツは?

ジェフ・ベゾスが取材を受ける場面に何度も同席しましたが、彼のすごいところは、聞いている人の頭に、イメージが瞬時に湧くようなエピソードが次々出てくるところですよね。例えば、彼がトヨタのカイゼンに学んだということを話したときは、「私がオフィスの片隅にホコリがたまっているのを見て、ホウキでそれを掃いていたときのことです」というところから話が始まりました。



構成・文=福光恵 編集=石井節子

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