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スタートアップこそ、「これから社内でストーリーを作り出せば」いい

もうひとつ、日本のとくに小さい会社では、実は強みをしっかり持っているのに、本人たちが理解していないというパターンが多いと感じています。私の本のタイトルを見て「ストーリーが9割と言われても、うちの会社にはストーリーがない」と思い込んでいる企業は意外に多いのです。

ところがよくよく聞けば、「元大手企業の人たちがスピンアウトして作った会社で……」とさらりとおっしゃったりする。そういうしっかりしたストーリーはあるのに、「それがなにか?」と本人達は思っていることがけっこうあります。商品やサービスは他社としっかり差別化している一方で、その背景にある「人」の強みだったりを見落としているんです。

中にいると気がつきにくいのですが、例えば「大手からスピンアウトしたメンバーが創業」というだけで、興味を持つ投資家やメディアは少なからずいます。実際そのような切り口でアプローチしてあるビジネスメディアで特集されたケースもありました。そういうことは真っ先に広報して、PRに利用すべきです。だいたいどこの会社でも、たいていストーリーの種になることはあるものです。

万が一、ストーリーが何ひとつない会社もあるかもしれない。でもそういうときこそベンチャーの面目躍如。すべてがこれからなのですから、これから社内でストーリーを作り出せばいいんです。まったく新しい人事制度を打ち出すとか、思い切った働き方改革を行うとか、これはアマゾンが実際にやっていたことですが、リーダーシップ・プリンシプルを作るとか、今から作れるストーリーはいくらでもあります。

大企業にはインパクトはありますが、小さい会社だからこそ、そうやって小回りが効くメリットは大きい。つまりストーリーが「ない」という企業にこそ、チャンスは大きいと考えていいと思いますよ。



──なぜ自分たちの強みに気がつかないことが多いのでしょうか?

とくに若い会社では、サービスに注力するのに必死で、サービスや製品以外の差別化された強みにまで目が行かないというのはあるでしょうね。まずは何よりも、自社のサービスの素晴らしさを知ってもらいたいという気持ちはわかります。ただし今の時代、自動運転にしろ、AIにしろ、すごい技術はたくさんある。飛び抜けて素晴らしい技術は出にくい状況があり、技術だけでは差別化しにくい時代なんです。

それより、その企業ならではのストーリーで、他社と差別化したほうがインパクトが大きい。例えば、開発ストーリーもそうです。順風な開発話には振り向かない人たちも、倒産寸前から這い上がって開発したものが大ヒットした、といったストーリーには引きつけられる。

もちろんわざわざ苦労する必要はないですが、すごい物を作ることは何でもそう簡単ではなく、そこに必ずや人の苦労だったり悩みだったり、いろんなストーリーが眠っているものですよね。だからこんな素晴らしい商品ができたんだねということを、ストーリーで訴えるのです。

Kindleというアマゾンの電子書籍を例にしてみましょうか。Kindleのサービスが開始されても、アマゾンではガジェットの話はほとんど発信しません。それより本を読む人の「悩み」に関するストーリーを発信していました。

例えば「旅行に持って行くと、荷物にならずに何冊でも読める」とか、「気になったワードで検索できる」とか、「だからKindleという商品が出てきたんだな」というバックグラウンドのストーリーのほうに集約します。

そんなストーリーを読んだユーザーは「自分のことを考えてサービスを作ってくれているんだ」と感じ、受け手にとって、Kindleの誕生が、他人事ではなく自分事になって迫ってくることが多かったと思います。

構成・文=福光恵 編集=石井節子

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