ミシュラン1つ星を世界最速で獲得。「ティルプス」大橋直誉のレストランの作り方 其の一


ここから1週間の間にシェフは決まり、お金の目処もついて、一緒に働いてみたいという若手も見つかる。Forbes JAPAN「30 UNDER 30 2018」に選出された料理人の安田翔平です。

でも、レストランの作り方がわからない。「お店作りたいんで、銀行口座を作りたいです」と銀行に行って「法人ですか、個人ですか?」と聞かれて、「一回調べてから来ます」というくらいに、何もわかっていなかった。

「独立開業の教え」的な本を読んでも、まったく理解できないまま、真夏に自転車で役所・銀行・店舗・業者を走り回り、必要と言われたものを集めていく日々。陽が沈めば不安に襲われ、陽が登れば自転車に乗り走り回る。決して効率的とは言えない立ち上げでした。

そうこうしてると「カンテサンス」の移転が終わり、空っぽの店舗を受け取ります。これで、器やカトラリー、グラスを揃えて、ワインを仕入れて、食材を入れて料理をすればもうレストランの完成。



と思っても、免許の申請で何往復もすることに。港区の保健所にいき「この図面では、営業許可は出せません」と言われて、「え、先週まで三ツ星レストランが営業していたんですよ?」と言っても「いえ、この図面ではダメです」と言われて、ちょっと内装をいじったり……。

会社の登記でも、あれも足りない、これも足りないって(一度、バッグを忘れて手ぶらで役所に行ってお互いに呆然としたことも……)本当に一歩一歩すすめていく日々。

地図もコンパスも積んでなかった「ティルプス」の船出

僕自身にはなんのブランドも肩書きもないので、予約の電話もつながらない「カンテサンス跡地にオープンするレストラン」という看板一つで海洋に出ようとする僕の船は、地図もコンパスも積んでなかったんだと知るのは、オープン後。しかも、それがどれほど怖いことだとは、この時点では何もわからず……。

営業許可証が取れた2013年9月18日にオープンすることになりますが、顧客リストもないから、DMも出せず、SNSに関しても、とりあえずフェイスブックのページを作っただけ。オープンさせる忙しさに周りが見えるわけもなく、「お客さんが来るか? 誰かに知ってもらえるか?」なんて悩みを抱える時間すらもないまま、お店はスタートしてしまった。

今の経験値がある自分なら、絶対に怖くて踏み出せない。けど、オープン2カ月でミシュランの一つ星を世界最速で取ることになる。



逆に、今の自分だったら取れなかったかもしれない。リスクが何かもわからず走りだす「ティルプス」の日々は、ここからずっと続くことになる。

文=大橋直誉

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