Forbes JAPANによる創業3年目以内のスタートアップのための「Rising Star Community」。そこに在籍する起業家たちは、ビジネスを変革すると同時にオフィスのあり方もまたアップデートしようとしている。果たして未来のビジネスの現場はどのように変わるのか。
AIによる個別最適化で教育改革を進める「atama plus(アタマプラス)」代表取締役 稲田大輔と、現役世代に医療を受けやすくするクリニック向けSaaSを開発する「Linc’well(リンクウェル)」代表取締役 金子和真の2人のトップに、Forbes JAPAN 副編集長の谷本有香が聞いた。
成果に向けてリソースを集中させればビジネスは加速する谷本有香(以下、谷本):Rising Star Communityに参画されてみて、いかがですか?
金子和真(以下、金子):参加資格の創業3年以内というのは、うまくいくかどうかわからない手探りの時期で、ネットワークもありません。あったとしても前職のつながりか、VCの紹介がほとんど。そんな時期に全く別の、同世代のスタートアップとのコミュニケーションができるのは、うれしいですね。
稲田大輔(以下、稲田):事業が成功すれば違いますが、まだ途上なので、世の中にはフォーカスされにくい時期です。そのような中で、発信の支援をしていただけるのは本当にありがたいと思っています。
谷本:そもそも、どのような課題を感じて起業を決意されたのでしょうか?
金子:前職はマッキンゼーでヘルスケア領域のコンサルティング業務についていました。その前は、東大病院で臨床医をしていました。その2つ、医師として、ビジネスパーソンとして実感したのは、病院にはお年寄りばかりで、若い現役世代が生活習慣病などの病気を治しに行きたくても、待ち時間の多い病院には行く時間がない、という事実。それで放置してしまい、定年退職して医者に行くころには手遅れになっている。
つまり働いている人が限られた時間できちんと医療を受けられる場がないのです。予約をしたのなら、待たずにサービスを受けられるというのは、他のサービス業なら当たり前ですが、医療現場には通用しなかった。この状態を変えたかったので、クリニック向けの予約システムから電子カルテの活用、院内オペレーションの最適化まですべてをフォローアップするオンラインプラットフォームを開発したのです。
稲田:私は学生時代、お笑い芸人を目指したくらい、人の笑顔をつくることが大好きでした。博愛的な精神ではなく、笑顔をもらうことが、自分にとってもいちばんハッピーになれる瞬間で。そんな幸せを社会全体にまで広げるためには、GDPを高めるよりも国民総笑顔量を増やす方がいいのでは? と本気で考えるようになったんです。
前職は三井物産で、世界一ハッピーな人が多い国・ブラジルに赴任して教育事業を行っていました。そこで気づいたのは幼少期の伸び伸びとした過ごし方です。だとしたら日本を笑顔にするためには、教育から変えなくてはならないと思ったのです。
これだけ社会が変わっているのに、教育だけが150年変わっていません。1人の先生の授業を、大教室にたくさんの生徒が集まって聞く。しかし人それぞれ能力が違うので、全員が効率的に学習できるわけではありません。そこでAIを使って、一人ひとりに合わせた教育を自動的につくってくれるプロダクトを考えました。
理想のオフィスにはミッションを共有できる人間しかいない!谷本:創業メンバー、チームとの関係性を教えていただけますか?
稲田:私を含めて創業メンバーは3人、いまは80人まで増えました。
谷本:世間的には30人の壁、50人の壁などの問題がよく語られますが。
稲田:個人的にはそうした一定数によって壁が生じるとは思いません。むしろ1人入社するごとに壁ができる印象です。1人加わるだけでも、確実に違う会社に変わるのです。その度違う会社を経験している感覚ですね。しかしそうした変化のなかでも、常にミッションドリブンなチームであり続けたい。そのため、スキルがいくらあっても、ミッションに共感できてカルチャーに共鳴できる人でなければ採用しないようにしています。
ミッションをしっかり共有できれば、細かいルールは必要ないと思うのです。カルチャーを基準にすれば、個々で判断できるんです。そして社内の情報はできるだけ共有する。
したがって社内は、給与情報以外のことはほとんど誰でも見られるようになっています。オフィス入居の際にすべての壁を取り払い、なるべくオープンに職場の人間同士が接することができるように気を配っています。
金子:私は前職で約5年、働いてきた"戦友"と2人で創業しました。過ごした時間・経験からくる絶大な信頼のある仲間です。現在チームは13人ですが、6月までは5人だったので倍増以上ですね。うちもミッション、ビジョンを共有できない人は採用しないようにしています。
谷本:オフィスの人数が増えると、ほかにどんな問題が生まれてくるのでしょう?
稲田:オフィスのネット環境ですね。だんだんつながりにくくなってくる。インターネット環境なしではもはや仕事はできない時代ですから、常に"つながる"状態であることは非常に大事です。
金子:うちも同じですが、究極の個人情報である医療情報を扱っているので、セキュリティ面も同時にシビアに考えますね。
稲田:どちらにしても問題になるのは、"誰がやるのか"ということ。エンジニアのリソースを使うのか、コーポレートチームが知識を覚えるのか。どちらも問題です。スタートアップ私たちにしてみれば、本業の成果を出すために、スタッフのリソースは集中させたい。余計な手間は捌きたいというのが本音です。
金子:本当に、設定などに手間と時間をかけるのは避けたい。
谷本:今回、Ciscoのスモールビジネスオフィス向けWi‒Fiソリューション「Meraki Go」を体験していただきましたが、感想はいかがですか。
稲田:現在はコーポレートチームがネットワークを設定しているのですが、エンジニアの手を一切煩わせずに、専門知識のない人間がスマートフォンで驚くほど簡単にセットアップできたことに驚いていました。これならリソースを節約できます。
金子:「つながらない」の声が一気になくなりましたね。この設定の簡易さは、オフィスはもちろんですが、サービスを導入しているクリニックでも非常に評判がいい。患者用にWi-Fiを開放できますし、接続時にランディングページを設定して医院側が情報を発信できるのも好評です。
稲田:前に進むため以外のリソースはなるべくミニマイズしたいスタートアップに、このソリューションは適しているんじゃないでしょうか。
金子:医療情報等の基幹システムがネットワーク上で稼働しているので、ネットに不具合が発生すると、診療自体ができなくなってしまいます。その点でも信頼できるネットワーク環境を手軽に構築できるのは、非常に魅力的ですね。
Ciscoのスモールビジネスオフィス向けWi‒Fiソリューション「Meraki Go」
https://www.cisco.com/c/m/ja_jp/meraki-go.html
いなだ・だいすけ◎atama plus代表取締役。東京大学大学院情報理工学系研究科修了。三井物産にてベネッセブラジル執行役員、海外EdTech投資責任者などを歴任し、2017年4月に大学時代の友人らと共にatama plusを創業。
かねこ・かずま◎Linc’well 代表取締役、医師・医学博士。臨床医(内科医・糖尿病専門医)として東大病院に8年間勤務した後、マッキンゼーにてヘルスケア領域のコンサルティングに従事。2018年にLinc’wellを創業。