ビジネス

2019.10.15

企業の競争戦略に、ダイバーシティは不可欠。リクルートが60年取り組んだ軌跡とそのナレッジ

人事統括室ダイバーシティ推進部 部長の塚本尚子

2000年代から日本国内で注目されてきた、企業のダイバーシティ。しかし、世界における立ち位置は、世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」によると、149カ国中110位とまだまだ課題が多い状況だ。そうした中、実は約60年前から「競争戦略」としてダイバーシティに注目し、推進に成功してきた日系企業がある。それは、リクルートだ。

同社は、経営理念として「個の尊重」を掲げており、約60年の歴史の中で各従業員がみずから生み出したサービスを社会に提供してきた。こうしたビジネスのなりたち上、「個の情熱」を活かすことによって競争優位性が高まると考えているのだ。

人事統括室ダイバーシティ推進部 部長の塚本尚子も「競争力の源泉」と考える、従業員の「個の情熱」。これを活かす仕組みとは、一体どのようなものなのか?塚本氏に話を聞いた。

企業の競争力の源泉は、人。だから、ダイバーシティが重要

当時はダイバーシティという言葉ではなかったが、同社におけるダイバーシティ推進の歴史は、1960年の創業と同時期に始まったと言える。当時では珍しく女性の採用に力を入れており、男女同一賃金の待遇で継続した採用活動を行ってきた。


リクルートグループのダイバーシティ推進ロードマップ

人事制度の強化に着手を始めたのは、2006年。ダイバーシティ推進の専任組織を新設し、長時間労働などの環境から脱却すべく、労働環境の改善を行った。その後、2008年には、育児との「両立支援」を開始。社内保育園の設立といった顕在ニーズへの対応だけでなく、ライフイベントの節目を迎える女性従業員の潜在的課題にもアプローチしている。最悪の場合、離職に繋がりうるケースを想定し、早期に打ち手を講じているのだ。

2013年には、経営戦略として女性管理職比率の目標を設定。結果、2019年4月時点では課長職に占める女性の割合は28%、目標を設定してから6年間の取り組みで約10%も上昇させる成果を収めている。

そして「働き方改革」が叫ばれはじめた2015年、リクルートホールディングスでリモートワークを導入。2019年現在は、グループ各社によって運用面の差はあるものの、たとえば午前中はリモートワークで個人作業に集中し、午後に出社するといったフレキシブルな働き方も社内ではみられる。

一見、順風満帆に推進されているが、同社がゴールとして掲げる理想はまだまだ高い。塚本氏は、今後の取り組みの方針について、こう語る。

「ダイバーシティ推進の理想形はひとつではありません。100人いたら、100通りの個が“あたりまえに”、活かされる状態を目指したい。育児に関わりたい男性が、日常的に育児に参加できたり、セクシュアル・マイノリティ含めた多様性の相互理解の土壌が普通にあることが大事です」

社内のファクトを徹底的に収集し、各論までリアリティある施策を推進

ざっと実績を挙げただけでも、同社がダイバーシティに対して独自の価値を見出し、戦略的推進してきたことが分かる。その推進力の源は、従業員の意思を尊重するボトムアップの文化だ。

ダイバーシティ推進において最も大事なことについて、塚本氏は「従業員のニーズにあった仕組、サポート制度が存在し、自由に利用できる環境を整えること」だと語る。だからこそ、基本方針は、あくまでも社員の「自分で選ぶ」意思を尊重すること。

各種の仕組み、制度は、責任も意識した上で、自分の意思を実現する為の仕組みという点において、一般的に見られるトップダウンの推進手法とは一線を画している。
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文=梶川奈津子 人物写真=小田駿一

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