ビジネス

2019.10.15

企業の競争戦略に、ダイバーシティは不可欠。リクルートが60年取り組んだ軌跡とそのナレッジ

人事統括室ダイバーシティ推進部 部長の塚本尚子


たとえば、LGBTQへの理解浸透を促すために、全社でeラーニングを導入している。ここで注目したいのが、その利用率。eラーニングの利用率は、トップダウンで強制しない限り、一般的に2割程度といわれているが、同社では「任意参加」であるにも関わらず、その利用率は7割にも及ぶ。2018年にはPRIDE指標で最高指標であるゴールドを獲得した。そこまで従業員の意欲を高められた秘訣は、導入時のコミュニケーションにある。「“社会の当事者として、当たり前に知っておくべき知識”と意味づけ、丁寧に伝えていくこと」と、塚本氏は話す。


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他にも、ライフイベントの節目を迎える女性社員に対し、一律でキャリア観醸成を行っている。同社グループ内で、28歳前後の女性従業員を対象に実施した内調査によると、「今後のキャリアとプライベートの両立に関し、不安や疑問に思っていることがある」と回答した女性が84%。そうした事情を踏まえ、当該年齢の女性従業員とその上長を対象に、それぞれ研修を実施している。

まず、本人に対しては、外部講師を招いたキャリア開発研修を実施。キャリアの選択肢を狭めないよう、ライフイベントを迎える前に複数のプロジェクトを掛け持つなど早めに各種の経験にチャレンジし、実践を積んでおくことを提唱している。この研修の累計の参加者は700名を超え、満足度が99%にも及ぶそうだ。

また、2015年からは、本人の実現したいキャリアをサポートできるよう、上司側にもマネジメント研修を実施している。「上司にキャリアのことを相談しづらい」と悩む女性は少なくない。そこで、上司からその溝を埋められるよう、「なぜ女性活躍推進が大事なのか?」と意味づけをしたのちに、具体的なマネジメントやコミュニケーション方法をレクチャーしている。

たとえば、医学博士を講師に招き、「男女における脳の構造の違い」「なぜ女性は面談中に涙することがあるのか?」といった内容を各論で解説。構造を理解したうえで、翌日から実践できるコミュニケーションの仕方やマネジメントの手法に落とし込んでいる。研修後には、実際にメンバーとのフィードバック面談を実施し、定着を促している。

他にも、特に男性の育児参加の促進を狙い、戦略的に休暇制度を拡充している。一般的には無給の「育児休業」をトップダウンで推進する企業も少なくないが、同社では男性の取得ハードルを下げる「有給休暇」に着目。

「妻出産休暇」という20日の有給休暇を設け、ハードルを下げた形で、仕事と育児を両立できるのだ。たとえば、毎日の送り迎えはリモートワークで時差通勤をすれば可能になるし、仮に育児の都合で終日休む必要がある場合は、その20日を分割して取得すればよい。実際に希望者のほとんどが取得できる状況をつくり上げている。


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さらに、VR動画を活用し、育児を疑似体験するといったユニークな研修も導入。仕事と育児の両立の難しさは、当事者となり体感しなければ、なかなかリアリテイが分からない。そこで、まだ育児を体験したことがない管理職に理解を促す手段として、実際に朝食を作るシーンや、想定外にオムツを替えなければならないシーンなど、日常的な育児の風景を疑似体験してもらう。

参加者の声は様々で、「これほど大変ならば、そこまでがんばらなくても…」と捉える人もいれば、「職場の接し方で、配慮できていなかった」と内省する人も。それぞれの気付きを踏まえ、自身のマネジメントをどう改善するかアウトプットする仕立てになっている。

100人100色の個性が尊重される世界に向けて、同社の挑戦はまだまだ続いている。

文=梶川奈津子 人物写真=小田駿一

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