それは「精霊飲み」か「悪魔飲み」か? 飲酒を豊かにする方法

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さて、そんな旅先で気に入ったワインは、家で飲んだとしても、リラックスして過ごした美しい環境や楽しかった休暇の情景を蘇らせてくれるものです。なぜワインが観光資源になっているかと言うと、香りや味わい、そしてワイナリーの景色など、重層的に記憶に残る力を持っているからではないでしょうか。

ワインは旅行者にとっては素晴らしいお土産であり、自治体にとっては観光のためのPR素材です。もしワイン好きであれば、自分の好きなワインの産地でバカンスを過ごす──それはこの上ない人生の贅沢ではないかなと思います。

では、日本酒も同じことがいえるのか。そんな問いを持ってみたいと思いますが、ヨーロッパと比べて日本では、お酒を観光資源として活かしきれていないように思います。もちろんフランスでも、単なる日常品、嗜好品としてのワインも山ほどありますが、世界に名だたる銘醸地が知られているように、観光資源としてうまく使っているところがたくさんあります。

これからの少子高齢化社会でより際立った観光立国を目指すなら、地方にはこうした考えのある名士さんが必要な気がしますし、国も日本酒の付加価値作りを積極的に考えるべきだと思います。

日本全国に数多ある美味しい日本酒は、地元で生産した米を使ってるのだろか? 物売りで、事作りにはなっていないのではないだろうか? 海外にいて知らないだけかもしれませんが、外から見ているとつい気になってしまいます。



日本は嗜好品の物作りから、地域での事作りに切り替えていかないことには、地方創生が進まないように思います。日本人がこだわった物作りが得意なのも十分わかるし、部外者を歓迎できなこともあると思いますが、どうも縦割り社会が好きなのか、事作りになると障壁ばかりがあるようです。そして、「共創」でなく「競争」になりがちです。

もう少しで収穫の秋。田んぼの稲穂も色付き、垂れてきますが、そんな生産地に訪問して稲刈りして、収穫をし、酒作りを体験すれば、日本酒は精霊飲みできるスプリットとなり、御神酒のようにありがたく飲めるようになるのではないでしょうか。

今回は「喰い改めよ!」ではなく「飲み改めよ!」でした。

連載:喰い改めよ!
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文=松嶋啓介 写真=Getty Images

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